第9話 キツネ

 中に入っていたのは少しだけ大きなサイズの妖気石だった。やはりこんなものかと大してがっかりすることはなかった。

 これは最も確率の高い報酬であるらしい。もしかしたら、今まで出てくることのなかった高価な代物が中に入っているなんて、あるかもなんて思ったりしたけれど、現実俺たちは凡人であったということであるわけだ。


「これっていくらぐらいなんだ?」

「1000円位だったはず。二人で分けてもまあ、小学生のお小遣いってところか」

「毎日入って、1万円ちょっとか。割に合わないって辞めるのも納得いくなこれは」


 毎日入るつもりなのかこいつは。よっぽど楽しくないと毎日なんて入らないだろうし、これより難易度の高いダンジョンに入るつもりもないのか。まあ、簡単に次のレベルに行けるというわけでもないのだが。ゲームみたいに簡単ではない。

 中の石を取り出して、奥の道へと進む。その先には水晶が台座に鎮座してある。あれに触れれば地上へと帰還出来る。わざわざ道を戻る必要がないのはありがたい。

 水晶に触れれば、ふっと目の前が真っ暗に染まり、それが終われば、ダンジョンの入り口の前に戻っている。と、いうわけではなかった。

 おかしなことが起きている。本来であればすぐさま入り口前に戻っているのに、そんなこともなく、謎の空間に取り残されている。目の前には小さな社のような建物があり、それ以外は真っ黒に塗りつぶしたように何も見えない。


「ほうほう、石を最初にこれほど集めて、なるほど確かに臓物もしっかりとあるな。よくわしの大好きな膵臓を持ってきおったな」


 声の方へと向けば、そこには真っ白の毛並みの狐がこちらを見つめていた。とととっと、駆け寄って俺の腰につけてある巾着袋をひったくる。

 器用に袋を開けて中から、臓物を取り出し食べ始める。


「それ、膵臓なんですか? 肝臓だと思って取ってきたんですけど」

「肝臓はこれだけだな。あとは膵臓と脾臓だな。小鬼の臓器は似ているからの。全部丸っこいから見分けがつかないのも当然だな。ま、全部ありがたく頂くから問題ないの。小鬼のモツなんて特別上下があるわけでもなさ」

「いや、換金するつもりだったんですけど」


 俺の言葉など無視して全てをぺろりと平らげるシロキツネ。どう言い訳すればいいのか。間違いなく、ここにくるのは当たり前ではないと思う。先程のキツネの言葉から、妖気石と臓器、それも膵臓を持って水晶に触れないとこれない場所なのだろう。

 解体をする探索者が一割ほどで、あまり儲からない最初のダンジョンから解体を始めるとなると、もっと少ないだろう。そして、ここにこれた人たちも言いふらしたりはしていない。それが何を意味するのか。


「さて、いろいろ食わせてもらったし、わしの力を少し与えてやろう」


 キツネが飛びかかってきて、反応する間もなく、二の腕に噛みつかれた。痛みに反応する前に意識がなくなるように視界が消え、気づいた頃にはダンジョンの入り口に戻っていた。

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