第7話 解体

「おうおう、春輝も問題なさそうだな。いやあ、良かったよ。どうせだったら二人して、ダンジョン探索で成功したいもんな!」

「まだ成功するとは決まったわけじゃない。もう一度気を引き締めないと」

「つれねえな。そんなんじゃ、逆にチャンスを逃がしちまうぜ!」


 バシバシと俺の背中を叩いてくる友人。普段と変わったところはないように見える。まあ、最初の一回は誰でも緊張するのは当たり前なだけだろう。たまたま、俺がそれに対する耐性というか、適応能力が十二分に高かっただけという話だ。健人も喉元過ぎればというわけだろう。

 再び奥へと進み始めるが、先ほどまでとは比べ物にならないほど、歩みが遅くなっていた。ただ、特別警戒心が強まったというわけではない。

 前を歩く健人は何か考え事をしているかのようで集中出来ていないのが丸わかりである。俺が定期的に声をかけることで、一時的に意識が戻るように警戒し始めるが、それがしばらく経つとまたしても、何を考えているのか、ぼーっとしたような雰囲気になっていく。

 その後、何体か飛び出してくる小鬼を棍棒で殴り倒していく。ダンジョンだから、ドロップアイテムが出てくるということもなく、死体が残ったままになる。それがいっそう、自分たちの行いをしかと見せつけられるようで困った所だ。

 俺たちの腰には装備一式の一つとして小振りな刃物を差している。とはいえ、これが戦闘で使えるような代物ではないというのは強く伝えられた。

 カードが発行されるまでの間資料に目を通していた。わかっている。何をする必要があるかなど、わかっている。いつかはやらなければならない。今のうちから経験しなければ、二度と出来るようにはならないだろう。

 小鬼のそばにしゃがみ込み、解体用のそれを手に取り、胸の辺りに突き刺して真っ直ぐ下へと引く。

 棍棒で殴るとは次元の違う感触。つい顔をしかめたくもなる。ぐちゅぐちゅと中をほじくって、心臓の隣にある小さな石ころほどの大きさのもの、あとは肝臓。それを取り出す。

 肝臓は薬の材料になるらしい。どんなものかは知らないが、大した金額で買い取ってもらえないので、風邪薬程度にしかならないのだろうが。で、この石ころは妖気石と言って、砕いて小さな筒に入れれば、電池代わりになるという代物である。


「•••お前すごいな」

「いや、ダンジョンの奥底まで降りて、踏破報酬として出てくる宝物を売るだけじゃ限界があるだろ。だったら、これもやらなきゃ稼ぎにならない。まあ、軽い副業感覚なら必要ないだろうけどな」


 ダンジョン協会の調べではモンスターを解体して、素材を持ち帰ってくるような変わり者は一割もいないそうだ。そうした方が儲かるとわかってもやらない奴が多い。それに人気探索者は自分で解体をせず解体専門の探索者を雇うそうだし。

 では解体専門で食っていけるかというとそうではないわけで。ならば、自分で倒したモンスターを自分で解体した方が経費も浮いて得しかないわけだ。解体に抵抗さえなければという前提を超えられるなら。

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