第6話 初戦

 まもなく、敵は現れた。対して歩いてないというのに、ぽこぽこと出現されては移動もそんなに出来ず困るのだが。それでも、覚悟が弱まらないうちに一戦目が出来るというメリットもあった。


「さて、次は俺の番だな」

「おう、頑張れよ」


 覚悟を決めて一歩前。あれだけダンジョンに乗り気であった健人が指を震わせるストレスに、俺が耐えられるのか。その不安はある。しかし、出来なければここで死ぬ。こんなにも簡単なダンジョンで骸を晒すような恥を見せつけることになる。

 相手が気付いた。こちらへと駆け寄ってくる。大した速度ではない。焦ることはない。ゆっくりと呼吸をして、心を落ち着かせるだけの余裕はある。

 吸って吐けば、視界はクリアに。全てに目が行き届くような、そんな万能感さえも覚えるような、不思議な感覚。それだけ緊張で視界が狭まっていたという事実までもが見えてしまったということではあるのだが。

 タイミングは良い。完璧と自画自賛出来る。しっかりと振り下ろせている。程よい脱力で、それでありながら確実に殺傷出来る確信に近い威力が乗っている。棍棒と頭蓋がぶつかり、その衝撃が確かに腕を伝って体全体へと伝わっていくのを感じる。震える、魂が。確かに命を奪う衝撃を俺は生み出した。

 倒れていく光景はスローモーションで、その指先足先の動きすらも目で追えていた。倒れた時の砂埃も、下手したら一粒一粒まで、完璧に見えていたかも知れない。

 ゾーンに入っていたといえば格好いいだろうが、別にそんなこともないと思える冷静さもどこかにある。アドレナリンが吹き出してきて、その興奮でそう勘違いさせているのだろう。

 ふと思い、俺はパッと自分の握りしめた拳を開き、見つめる。手汗もなく、震えもなく。まるで日常を過ごしている、意識のかけらも割くことがないであろうそれそのものが、目の前に映り込んできた。

 脳は興奮で支配されているもんだと思っていたが、身体は全くそんなことがなく冷静そのものであった。

 それならば、手が少しでも痺れていてくれた方が良かったのに。それならば、あれも説明がついただろうに。健人もただ肉を殴りつけた痺れが出ただけなんだって、納得させられたのに。俺の身体は、あんなことなど、無かったことと変わりないと教えてくれるのである。

 残念なのか、喜ぶべきことなのか、俺は健人以上にダンジョンで活動する適性があるということなのだろう。すぐさま俺は頬を叩いた。パンッと軽い音が鳴る。


「ど、どうした?」

「いや、気合いを入れ直した」


 俺は顔から滲み出ていたニヤつきを消し飛ばすように、顔を揉んでいく。

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