第4話 入場

 闇が顔を覗かせている。先の見えない完全な黒であった。

 そこが、ダンジョンの入り口である。別世界がそこを潜れば広がっている。

 もし、世界中に広がっているダンジョンすべての総体積を出せば地球の体積の400倍ほどはあるらしい。

 ダンジョンで生活が出来るなら、地球の人口許容量はさらに多くなることだろうが、そんな安全な場所ではない。何度か検討したことはあるそうだが、今もまだ実現していないということは、つまりはそういうことな訳だ。

 まあ、この世界はダンジョンのおかげか、人が先進国だろうと死にやすいためか、そんなに人が多い世界というわけではないのだけれども。

 俺が現実逃避とも言えるような、そんな思考ばかりをしている間に、健人はさっさとダンジョンの中へと踏み込んでいく。よくもまあ、恐怖を煽る黒い穴の中へと入れるものだ。間違いなく俺より探索者としての才能があるだろう。慎重派といえば聞こえのいいが、度胸がないに等しいだけである。

 しかし、あいつを放っておいたら、勝手に死んでいるかも知れない。目の前のこれも比較的安全とはいってもダンジョン。絶対はないのだから。

 いざ覚悟を決めて入ってみれば、意外というか当然というか、なんてことはなく。目の前には薄暗い洞窟が広がっている。ダンジョンと言われてもなんとなく思い浮かぶタイプである。

 すぐそばには、周囲をぼーっと眺めている俺の友人の姿があった。わかっていても、実際に目の前に見てみれば、感慨深く眺めてしまうというのはあるのかも知れない。この光景を前にして、探索者になったんだと、実感が湧いてくることもある。あまり乗り気ではない俺ですらそう思えてくるのだから、健人はどれほどだろうか。


「すげえな。とうとう来ちまったな」

「お前は小学生くらいの頃からうるさかったからな」

「だってよお、男なら一度は憧れるだろ。ダンジョンの奥深くへと入り、強大なモンスターを倒し、莫大な財宝を持って帰る。あれを超える夢なんて、あるはずがないだろうて」

「俺は現実を見るタイプなんでね。あいにくとその前に死ぬ可能性の高さに震え上がるような人間なのさ」

「知ってる」


 改めて、俺という人間の弱さを認識するとともに、友人からそんな反応をされて、少しむかつく自分もいた。そう言われると、自分でもわかっているくせにそんなふうに思われたくないという、面倒くさがりなところが湧いて出てくる。

 別に表に出すことはないのだが。


「さて、感傷に浸るのはこれぐらいにして、奥へと進もうぜ」

「そうだな」


 俺たちは、その先へと進んでいく。その足取りは軽くもあり、重くもあった。

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