第3話 装備

 なんと、ダンジョンに入る前に軽鎧と棍棒を貸してもらえるらしい。先人の探索者たちのお下がりがこうして寄付されていて、無料で借りられるというわけだ。探索者に対するイメージと、違った印象を感じる。が、そうでなければ人気者としてメディアに引っ張りだことはならないということでもあるのだろう。

 これで、実際に装備品を買い揃える前に、どんなものかと実際に触れられるのはありがたい。もうこの時点で装備を着て動けなくなるような、簡単に脱落してしまえるような者を排除出来るのだから。無駄に命を捨てる必要はない。

 俺たち二人は、そこまで苦にならなかった。むしろ、意外と着心地が良かった。高級品なら、着心地にもこだわるそうだが、新人が使うような安物にそこまでの意識はないはずだ。動きを邪魔しないことと、ちゃんと体を守れること。それをしっかり作るだけで他にも回せる予算がないはずだ。

 だからか、鎧を着ても苦にならない、気にならないなんて、装備適正があるというだけで、かなり恵まれているというわけだ。


「お二人とも、最初の壁を越えられたと思ってもらって構いません。鎧を着てまともに動けなくなるような人も、ごくたまにいますからね。軽鎧ではありますが、鎧を着て活動できるだけでも、しっかりと素質があるのだと、自信を持って下さい」


 着付けを担当してくれた職員さんにそう言われると満更でもなくなってしまう。特別感があるなんて、舞い上がってしまうとは、やっぱり特別だと思われたいのだ。なんだかんだで有名探索者の情報は気になって追いかけたりもする。結局は俺はまだ子供だ。有名になれば子供達のヒーローである。

 どんな世界でも巨大な怪物に立ち向かい、倒す姿に憧れてしまうという、簡単な生き物なのであった。


「おいおい、これじゃあ俺たちも有名探索者の仲間入り出来るんじゃねえか? サインの練習でもしなくちゃならねえかもなあ」

「いやいや、鎧を着てちゃんと動けるやつだけがダンジョンに潜っているんだから、まだスタート地点にも立ててないと思うぞ」

「なんだよ、少しぐらい調子に乗らせてくれたっていいだろ? 特別感を味わいたいんだよ」

「新人の探索者に特別感なんてものはないさ。そういうのは五体満足で引退できてからでいい」


 だが、隣に俺以上にはしゃいでいるやつがいたら、すぐにでも冷静になれる。まだまだ才能があるとわかったわけではない。参加権をもらえたに過ぎないのだ。

 この鎧から感じる冷たさが、冷静になっていく俺の頭に現実の恐ろしさを伝えているようで、ぶるりと体を震わせてくるのであった。

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