第2話 付き添い

 目の前には、ダンジョン協会の大きな看板。それが掲げられている建物の自動ドアを通って、俺たちは中へと入る。

 結局ついてきてしまった。俺も多少はある成り上がりたい願望が死の恐怖に勝ったのもあるし、友人である健人が死んだと知れば、後悔するに違いないと断定できたのも間違いなかった。

 田舎から上京でもしてきたかのようにキョロキョロと辺りを見渡している様はなんとも滑稽極まることだろう。イメージするような酒場の併設されたギルド、などといった類のものではないが、近くを通りがかる職員たちからは、温かい視線を浴びているのは確実に言えることであった。

 ひとまず、お上りさんでいるのはやめて探索許可証、探索者カードと言われるものを発行しなければならない。それがなければダンジョンでの探索や戦利品の換金が出来ないのだから。

 目の前に『ご新規の方』と書かれたプレートと矢印が見える、それに連れられるように歩いていけば、すぐにカード発行の受付に辿り着いた。

 手続きは簡単だった。渡される幾つかの書類に必要事項を記入していくだけ。ただ、ダンジョンでの死亡を自己責任であることを受け入れる署名だけは手が震えた。これを書いたら、死に近い場所での活動が可能になるのだと、強烈に意識づけられた。職員にじっと見られているというのも緊張する要因であるかもしれない。こんなことで震えるような小心者だと思われたかもしれないと、なんだか恥ずかしくなってきてしまう。

 なにせ、健人はサラサラと書いていくのだ。むしろ、ちゃんと書類は読んだ方がいいと思う。あそこまで能天気にペンを走らせるのは逆に恐ろしいだろうに。


「珍しいですね。このぐらいの年頃の子はもう少し無鉄砲なんですよ。あちらの方みたいに」

「はは、まあ、俺は慎重な人間なんですよ。殆ど付き添いみたいなもんです」


 微笑ましいものを見るような、そんな目線から逃れるように、残りを急ぐように書き上げる。それでも内容に目を通すのは忘れないが。

 書類を渡して写真撮影を行い、しばらく待てば、俺たち二人には、ダンジョン探索を許可する探索者カードが渡されることとなる。

 運転免許証より簡単に、身分証としても使えるカードが貰える。それもあってか、みんな一度は来るのだろう。


「よし、じゃあ早速入ろうぜ!」

「やだよ。なんの準備も無しに入って死にたくはない」

「なんだよ知らねえの? 協会の中にダンジョンがあってさ、あまりにも利益が見込めないようなヘボくて弱いダンジョンだからって、管理しているのがあるんだぜ。そこでダンジョンの雰囲気を掴むんだとさ。みんな通る道だってよ」


 なるほど、それならば自分に向いているかどうかを比較的安全なうちに確かめられるわけか。

 だが、それでも何も持たずというのは少しばかり、舐めすぎではないだろうか。それとも、俺が怯えすぎなのか。

 諦めにも近い感情で、健人の後ろをついていくばかりであった。

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