006

 勇者として死ぬと、地球で一人の人間となる。

 地球で死ぬと、勇者として魔王討伐の旅に出る。


 何度も何度も繰り返した。

 どこがスタート地点かも分からなくなった。

 どちらかを終わらせることも出来なかった。


 ただ、未練だけに囚われて、何も出来なかった。

 僕はつまらない人間だ。

 自分で、何も決められない人間だ。


 何度も何度も旅をする。

 何度も何度も夕陽を見る。


 そして、何度も何度も、同じ人を好きになる。


◆◆◆


 大切な人の隣を歩いている。

 もう何度目かも分からない地球の日、何度もやり直しても好きになる人の隣を歩く。


「もし人生をやり直せるとしたら、どうしたい?」

「そうねえ……」


 ふと、問いかけた言葉。なんで口に出したのか、自分にも分からない。


「分からないけど、一つだけ譲れないものがあるかな」


 あんまりにも自然で、あんまりにも当然のように――


「もう一度、あなたと恋をしたい」


 僕に笑顔を向けてくれた。


「だって、あなたは世界一素敵な人なのだから」


 そこの言葉に、満足してしまった。

 もう、地球でやり残したことはない。

 その人生はとても長くて、僕も妻も手がしわくちゃになるまで生きて、死んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る