003

「よくぞ聖剣を引き抜いた! お主こそ選ばれし勇者である!」


 知っている誰かの声が聞こえた。

 気が付けば、また旅立ちの日。『イ・スラフィア』大陸の命運を背負って、旅立つ日が来た。

 いつか感じたように、腰に下げた剣は重かった。


 二度目の旅は前よりも順調だった。

 前よりもうまく戦って、前よりもうまく旅をした。

 前回死んだ場所も無事にクリア。山を越えて次の土地へ。

 たくさんの景色を見た。

 たくさんの人を見た。


 その中で、幻を見た。


「あの人は、どうしているんだろう」


 ――地球で恋をした女性はどうしたのだろう。

 

 未練だと言い聞かせて頭から追い出す。

 目の前に広がるのは赤い荒野。魔王の魔力によって焼き尽くされた死の大地。

 泣いている人がいる。助けを待っている人がいる。

 行こう、僕にはやることがあるんだから。


 だと言うのに、死と言うのは本当にあっさり襲い掛かる。

 僅かな油断。女性型の魔物に、誰かの影を重ねてしまった。

 一瞬の油断のうちに、命を奪われた。


 ――あの時、もうちょっと上手く出来ていたんじゃないかな。

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