002

「つまらない人生を生きてきた奴ってさ、つまらない死に方をするんだぜ」

 

 どこかで聞いたような言葉が耳に入った。

 夕焼け空の下、学ランを着た少年が目の前を歩いている。

 聞こえてくるのは懐かしい歌。道の先に広がる街は、どこか古めかしい。


「あれ……」


 ああ、思いだした。中学時代の帰り道。目の前に居るのはいつしか疎遠になってしまった友達。

 入学の時に、背伸びをして買った学ランはまだ少し大きくて、着ていると落ち着かない。


 どうやら、過去に戻って来てしまったようだ。


「どうしたんだ?」

「ううん、なんでもない」


 どうして戻って来たかは分からない。

 でもそれなら、今度はつまらない人生にならないよう、生きよう。

 思いっきり吸い込んだ空気は、瑞々しい草の香りが混ざっていた。


 勉強を頑張った。

 スポーツも頑張った。

 ずっと憧れていた女の子に告白しようとして失敗した。


 それでも、すべては前の人生より上手くやっていた。

 だけど――


 三十歳になった日、家への帰り道。

 酔っぱらっていた僕は、信号を無視して道路を渡ろうとした。

 それが失敗で――

 気が付けば、身体が宙を舞っていた。

 木の葉のように吹き飛んで、地面に叩きつけられる。

 いつかと同じように、つまらない理由で死んでいた。


 ――おかしいなあ、僕は何もできていない。

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