001

「よくぞ聖剣を引き抜いた! お主こそ選ばれし勇者である!」


 知らない誰かの声が聞こえた。見たこともない景色が僕の前に広がっていた。


 赤い生地に金色の縁取りがされた豪華なカーペット、その両脇を固めるのは鎧姿の騎士たち。ひざまずく僕の前には、豊かな髭をたくわえた老人。頭には金の冠が輝いている。どこかの国の王様なんだろう、そう直感した。


「既にお主にも分かっているだろうが、この『イ・スラフィア』大陸の命運は風前の灯火である――」


 異世界なのに聞いたことのあるような言葉。いかにもな和製ファンタジーRPGの導入。確か、昔に遊んだゲームにこんなオープニングがあった。


 よく分からないけれど、僕は異世界転生をしてしまったようだ。

 僕は勇者で、目の前の人は王様で、たぶん僕は魔王を倒さないといけない。


 王様からの激励の言葉と旅立ちの餞別を貰い、騎士たちの敬礼に見送られて旅に出る。

 腰に下げた剣は重くて慣れないけど、やらないといけないことは分かっている。

 

 どこまでも続く草原を歩くのは楽しかった。

 ゲームだと1ダメージだと無味乾燥に表示されるけど、それがどれほど痛いかを知った。

 困っている人を助けて、悪い魔物を倒して、山を越えて――


 ――そして、僕は死んだ。

 ちょっとの油断からだった。小鬼の群れに突っ込んだら、手間取っている間に5メートルはあるゴーレムがやって来た。剣も呪文も通じず、気が付けばその剛腕に潰されていた。


 ――ああ、結局僕はつまらない人間なんだ。


 異世界に来ても、つまらない理由で死んでしまう。

 何のために、生まれ変わったんだろう。

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