始点n

狼二世

ここから

 ――つまらない人生を生きてきた人間は、つまらない死に方をする。

 昔、誰かに言われた気がする。

 父だったか、母だったか、それとも友達と冗談交じりに語りあった時だったか。

 ああ、思い出話も一つもロクに出てこないのだから、僕の人生は本当につまらないものだったのだろう。


 身体が動かない。

 何かとてつもない大きなものとぶつかったことだけは覚えてる。

 もう、何も見えない。何も、聞こえ、ない。ぜんぶ――消えて――


◆◆◆


 水のような、風のような、何か波のようなものが肌を撫でる。

 視覚は壊れてしまったはずなのに、光があることだけは分かった。


 それは人の顔の形だったかもしれない。

 それは何かを語り掛けていたのかもしれない。

 ただ、そこに在るだけで心が安らいでいくのを感じた。

 

 ――誰かそこにいるの?


 問いかけようとしても声は出ない。

 何も出来ない僕の意識は、再び白く塗りつぶされていく。

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