第22話 デートをしなくてはならない!
「先ほどは気が焦ってしまい、申し訳なかった」
その後、まだ授業中だというのに、あたしは空き教室へと連れられていった。
もちろん、先生……といっても、教頭の付き添いで。
しかし教頭も教室まで案内したら「それでは、あとは若いお二人で」と、すぐどこかへ消えてしまったが。
大混乱を極めている真っ最中だが、あたしが尋ねられる相手は一人しかいない。
「ごめんなさい。そもそも、今の状況がよくわからないのですが……」
だって、タイチは教室を出る前になんて言った?
あたしを娶るとか言っていなかったか⁉
すると、タイチは椅子から滑り落ちそうになるくらい大袈裟に驚く。
「なんと……君は訳も分からず、あんな場所に身を置かれていたというのか⁉」
いや、あんな場所と言われても、普通の学校の授業中だったと思うのですが?
だけど、あたしが「はあ」と生半可な返事を返せば。
タイチは頭が痛いとばかりに眉間を揉み始めた。
「今日が参観日だと、聞いていなかったのか?」
「授業が始まる前に、先生が言っていたけれど……」
「君は参観をどのようなものだと思っていた?」
口調は固いものの、彼のまなざしからあたしを責めるものではないと窺える。
それはそれで、同情されているようで気まずいものだね。
「親が、学校での子供の様子を見に来る行事かと」
「違う――参観は嫁探しのひとつだ」
……なんだそれ。
たしかに、色めきあってたクラスメイトらの様子や、参観に来ていた親子の目は、選ばれる者と選ぶ者のそれのそのものだった。
「見合いの前段階みたいなものだな。実物を見て、気に入った女性がいたら、こうして連れ出すなり、後から名前などを聞いて見合いの手順に入る。写真と実物だと別人のようだと揉める場合もあるらしいからな。それを防ぐために、このようなことが行われるようになったらしい」
「それまた、合理的というか、なんというか……」
女性として聞いていてあまり気持ちないが、たしかにあとから文句を言われるよりはいいような気もする。気がするだけだけど。
それと同時に、あたしはふと思い至る。
「あれ、だからネネ嬢は今日休んだ……?」
「兎橋の令嬢なら、そうだろうな。婚約の見直しが噂されているが、あれほどの者ならこんな珍獣扱いされなくても、すぐ別の縁組がすぐに見つかるだろう」
「いや、珍獣って」
そう言いたい気持ちは、あたしもわかるけどね?
でも、その珍獣を見に来たあなたが言っていいことではないと思うぞ。
そんな考えが顔に出ていたのだろう。タイチが慌てて取り繕う。
「ぼ、僕は母の頼みで仕方なく来たんだ! 両親も同行する暇などないくせに、やれ僕にはさっさと嫁を見つけて子供を作れなど……だから、今日は体面を保つためだけに来たが……君がいるなら、来てよかったとも言えるな」
そこでどうして、あたしをうっとり見つめる必要があるのか。
それはそうとしても、警官のお偉いさんの跡取りも大変だな。まだ若いのに、もう子供を作れと言われるなんて。
「僭越ながら、タイチさんはお幾つで?」
「今年で十七になる。あと、今更敬称は不要だ。呼びやすいように呼んでくれ」
「あっ……」
そういや、さっきも堂々呼び捨てしちゃったっけ。
でも、こないだの舞踏会でも大人しくはしていなかった気がするけれど。
やっぱり、タイチはあたしを見つめては頬を赤く染めていた。
「むしろ、それだけ心を開いてくれているということが嬉しい……」
いやぁ、毎度のことながら。
この人はあたしに何の勘違いをしているのだろうね。
あたしが頬を掻いていると、タイチは威勢よく自身の膝を叩く。
「そ、そんなことよりも、とりあえず君のことだ! あいつが無理やり君をこんなところに放り込んだのだろう⁉ まったく、恋人だの俺のだの言いながら、一体何を考えている⁉」
「あいつって、やっぱりシキのこと?」
「他に誰がいるというんだ⁉」
……ちょっと待て?
そういや、マリアさんが今日は欠席するように言われたと言っていたな?
それって、今日はこんな『参観』があると知っていたから、あたしに休むようにと言っていたんじゃ?
だったら、多少なりと弁明をしておくのが人情というものだろう。
だって、あたしが勝手に学校に来たわけだし。
そのせいで、シキが婚約者を他の男の嫁探しの場に出すなんて……そんな性癖が広まったら、さすがに可哀想である。もしかしたら、普段シキにきゃあきゃあ言っている子らの中には、それでもいいから遊ばれたいと思われる女の子もいるかもしれないけれど。
だけど、あたしが「あの~」と話し出す前に。
「……このあと、お互いに親交を深めるのが通例なんだ」
タイチが固唾を呑んで、真っ赤な顔で告げてくる。
「僕に選ばれた以上、君は僕とデートをしなければならない!」
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