再スタート ~楽しいゴールにするために~

ユリノェ

再スタート ~楽しいゴールにするために~

「スタートすることなら誰でもできるけどさ、ゴールは難しいよね」

 唐突な歩未あゆみの言葉に、風香ふうかは一瞬きょとんとした顔をした。

「そう? 考えたことなかった」

 そこから少し考えるような仕草を見せた後、何か腑に落ちたみたいに右の拳で左の手のひらをポンと叩く。

「あー、歩未は長距離走者だからだ。そんで私は短距離だから、ってことだ」

 自分の何倍もの距離を走る歩未のことを考えると、当然ゴールに辿り着くまでに必要な時間や持久力がまず段違いだ、と風香は言いたいようだ。

「歩未に比べたらゴールまで何百メートル程度って、しんどくないしなぁ」

「そうかな?」

 歩未に問い直されるとは思っていなかった風香は、また意外そうな表情になる。

「短距離だって、必ずゴールできるとは限らないんじゃないかな。途中で転んだり怪我するかもしれないし」

「んー、まあ確かに?」

「そう考えると、やっぱりゴールは誰でもできるものじゃない気がしない?」

「そうねぇ。でもさ、さっき『スタートは誰でもできる』って言ってたけどさ、それも実はそうでもないんじゃない?」

「え?」

「走ること以外でもさ。何か新しいことを始める! とかはさ、案外難しいものじゃん?」

「なるほど」

「特に大人になるとさー、何かするにも気力が要るもんだよね。どんどん新しいスタートからは遠ざかっとるわ~」

「確かにそれはあるね」

 歩未も納得したようで、頷きながら風香の話に真剣に耳を傾けていた。

「そういえば、よく人生をマラソンに例えたりするよね。そういう意味だと、生まれた時点で誰もがスタートしてることになるか」

「なーんか難しいこと考えるようになったね、歩未って昔からそういうとこあったけど」

 軽く笑って見せながらも、風香も感化されたように何か思考を巡らせ始めたようだ。

「そんで死が人生のゴールってわけか。それなら誰にでも必ずやってくるし、誰もが絶対にいずれはゴールできるってわけねぇ」

「そうだ、そういうことだね。そこに至るまでが楽しいか辛いかは最後まで分からないし人それぞれだけど……誰でもゴールするんだね。そこまで考えなかったや。風香からそんな話を聞くのはちょっと意外だったけど」

「ははっ、私も大人になっちまったってことよ~。てか最初にこの話始めたの歩未じゃん!」

「そっか、そうだった」

 二つの笑い声が響く。

「あの頃は、なーんも考えずに走ってたよね~」

「うん。まあ学生は学生なりに悩んでただろうけどね」

「そっかぁ、だんだん忘れてきちゃったけどそうだったんだろうなー。シャカイジン大変だわぁ……日々過ごすのでいっぱいいっぱいよ。なーんか良い感じの再スタート切れないかねぇ」

「それならまた走ってみる?」

「お、いいねぇ。初心にかえるってやつ? いやー、体力落ちてるだろうなぁ!」

「それね、私も怖いなぁ……でも風香と一緒ならきっと楽しいと思う」

「なによ照れるじゃん」

 走るペースは違う二人だけれど、不思議と噛み合う。それをお互いに感じていた。

「そんじゃ、ここから再スタートしますか! 楽しいゴールにするために!」

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