勝負(前編)

 ブチ切れたマリーが本の魔獣(そう呼ぶことにした)から降りる。

 僕もそれに応じて、インヴァセキュを足元の影から引きずり出す。


 なんだ?てっきり本の魔獣の機動力的なのを活かして攻撃してくると思ったんだけど…


 どう攻撃してくるのか考えているとマリーが仕掛けてくる。


「『模倣魔術・雷電』。」


 マリーが魔術を唱えると、何も無いはずの頭上から僕に向かって雷が落ちた。


「あっぶねっ?!…これ、初めて図書館に入った時に打たれやつじゃ…」

「正解。初見で避けられた時は驚いた。」

「その顔見てみたかったよ。」


 余裕そうにしてるけどマジで危なかったな?!当たってたら死んでたかもしれん。


 しかし、それよりも気になることがあった。


(『模倣魔術』…聞いたことの無い魔術だ。)


 僕は聞いたことのない魔術に戦慄した。


 名前の通りだと、相手の魔術を模倣して使う…ってところか?

 それだったらチートすぎんだろ。僕の自由属性もよっぽどチートだけど。流石に何らかの制約があるはずだ。僕には無いけど。

 ……あれ?こう考えたら一番チートなの僕じゃね?


 自分が本当にヤバいやつだと自覚してしょげていると、マリーが微笑みながら僕に向かって警告する。


「…戦いに集中しないとダメ。」

「っ!!!!いってぇっ!!!」


 僕の右腕に激痛が走る。激痛を感じた方に目を向けると…そこにはさっきまであった右腕が無くなっていた。血がボタボタと溢れ落ちる。


 今も尚、血が溢れ出ている無くなった右腕からマリーへと視線を移す…正確にはマリーの傍らにいる本の魔獣に。

 本の魔獣を見て、僕はイラつきを覚える。なぜなら──


 ──本の魔獣は……僕の右腕を咥えていたからだ。

 マリー満面の笑みでこちらを見てくる。


「ね?だから言ったでしょ。集中しないとダメって。」

「っ!くそっ!『闇魔術・魔液』!」


『闇魔術・魔液』は『世界魔術・魔雫』には劣るが、驚異的な回復力を誇る、闇属性の最上級魔術だ。腕は元通りにならなかったが激痛は止まった。


 激痛が止まり、少し冷静になると腕を持ってかれた原因を考える。


 普段の僕なら避けられる攻撃を受けたとなれば…マリーの魔力特性による効果か、もしくは本の魔獣の方が僕より速いかの二つになる。


「まだまだいく。」


 マリーが本の魔獣と一緒になって、猛攻を仕掛けてくる。片手だとキツすぎるので魔力を圧縮しで義手を創る。


 マリーは驚いたように見えたが、勢いが止まることは無い。


「少しは考えさせてくれよ!」


 そう嘆き、必死に猛攻をしのぎながら先程の原因を考える。本の魔獣を見てみる。


 …見た感じ、本の魔獣は俺より遅そうだな。なら、原因は一つ。マリーの魔力特性だ。


 辿り着いた答えをマリーに叫ぶ。


「おいマリー!さっきから体が重いと思ったらお前の魔力特性のせいか?」

「ん、正解。」


 どうやら正解だったらしい。だが体に重さを加える属性なんて聞いたことがない…だとすると──


「──隠れ属性か…」

「またまた正解。特別に教えてあげる。私の属性は重力属性一つだけ。周囲にあるあらゆるものに重力を加えられる。あと錬金術も使えるよ。」

「こりゃご丁寧にどうも。っていうか『模倣魔術』ってなんだよ。」

「…特別の特別に教えてあげる。『模倣魔術』…それは、錬金術から創られた魔術のこと。素材は私の魔力だからオリジナルには勝てないけど。」


 うーん、この。重力属性とか初めて聞いたこともだけど、何より衝撃が大きいのが『模倣魔術』が錬金術だったってことだ。錬金術で魔術を創るなんて聞いたことないよ…


「じゃあその本の魔獣は?」

「さっきから本の魔獣、本の魔獣言うな。これ以上は教えられないけど、名前なら教えてあげる。この子の名前はリーベル。私が魔術書から創ったユグドラシルに次ぐ傑作。紹介も終わったし行くね。」


 とんでもないものばかり創るなやマリーさん…まぁんなことはどうでもいい。


 マリーが先程以上の猛攻を仕掛けてくるが、そんなことは気にしない。


 今はただ、勝つことだけを考える。


 マリーが模倣している魔術は幾つだ?重力属性はどんな魔術を使ってくる?リーベルの能力は?マリーの魔力量はどれだけある?そもそも相手はマリーとリーベルだけか?マリーは『独創世界』を使えるのか?

 さらに思考を加速させ、一つの結論に辿り着く。


「やっぱり…これだよな。」

「『模倣魔術・穿風』。」


 マリーの『穿風』が眼前の迫る中、僕は口を開く。


「『独創世界・権冥の世界』!」

「…無駄ですよ。ここには『魔術無効』の付与効果が─っ?!嘘っ…!」


 マリーが驚くのも仕方ないだろう、魔術無効の付与効果があるにも関わらずマリーの『書斎』を狂気を孕んだ影が塗りつぶして行くのだから。


 よかった。展開できたみたいだ。…さて、これにどう対応する、マリー。


「仕方ない…『独創工房・惑星工房』。」


 マリーが謎の魔術を唱えると、『権冥の世界』を鉄パイプやらなんやらが高密度で繋がっている壁が塗り替えようとするが、シトリンとの模擬戦同様に拮抗し、動かなくなった。


 待て待て待て、知らんのが出てきたぞ。『独創工房』?なんだそれ。聞いたこともない。


「その顔、『独創工房』を知らないみたいだね。」

「初めて聞いたよ。」

「だって私のオリジナルですから。これを使うのは初めてですから楽しみですよ。」


 とことん化け物だなおい。まあやれることはやるか。…『冥権之支配者』は封印しておこう。あれ使うとあんま楽しくないからな。


 ひとまず僕は『惑星工房』がどんな能力か分からないため、様子見する。


「来ないの?ならこっちから。『工房魔術・魔力炉』。」

 マリーがまたしも謎の魔術を唱えると、マリーの背後に巨大な炉が創られていく。


「え待ってなんそれ。でかすぎん?」


 動揺して関西弁なってしまった。

 違う違うこんなこと言ってる場合じゃない。

 警戒してかないとやばい事になりそうだ。


「『工房魔術・魔力炉』…効果は無尽蔵の魔力…いいね。」


 いいねじゃないよマリーさん…



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 えちょまです。

 前編と後編にわけます。

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