宿屋の女将メイジーの証言

あの日、あの、クレイグが殺される前日。モイラの様子がおかしかったんですよ。いつも上の空のような呆けた顔でふわふわと笑っている子でしたけれども。

朝食の準備をさせていて、ベーコンの焼けた匂いを嗅いだあの子は、顔を歪めて蹲ったの。そのまま床に嘔吐したものだから私はびっくりして。

まるで毛玉を吐いた猫のようにうつ伏せになると、目をまんまるくして「お母さん、おようふくがきついの。なんでかしら」って本当に不思議そうに言うものだから、人様からなにか貰って食べてしまったのかと聞いたら「なにもいただいていないわ。いつもの泥炭だけよ」と言ったんですよ。

私はね、あの子に本気で泥炭を採りに行かせたいわけではなかったんですよ。少しばかり厄介な客が来た時、避難のために『泥炭掘り』を口実に外に出したんですよ。

あの子は最初、空の樽を持ち帰るたびに「お母さんごめんなさい」と泣きながら言うものだから「あんたには兄さんたちの苦労を知ってほしかっただけなんだよ。泥炭採掘の人たちを遠くから見ているだけでいいんだよ」と声をかけてやったんです。

そんなふうに半月ほど過ごしていたら、あの子の樽に少しずつ泥炭が入っているようになって。採掘場のあまりでも拾い集めているのだろうと思っていたら、二月後には樽いっぱいの泥炭が詰まっていたんですよ。ちゃんとした塊で。驚きましたよ。女の子一人でできることじゃない。しかもそれが、次の日も次の日も、良質な泥炭を樽いっぱい入って帰ってくるようになったので「どこの人がお前を作業に入れてくれたんだい?」と聞いても、あの子は頑なに答えなかったんです。

モイラは、嘘がつけないことが良くも悪くも美徳だと思っていたのに。そしてあの日突然の嘔吐。太ったから服がきつくなったなんて、変でしょう。なんだか胸騒ぎがしてたまらなかったのです。あの子自身が答えてくれないのなら、息子たちにモイラの後を付けさせて、あの子に泥炭を持たせてくれる人にご挨拶とお礼をするように、とお願いしていたんですよ。

ですから、まさかクレイグが殺されてしまうなんて、思いも……思いもしないことでっ、ぅああぁぁあああ…くれいっ、ぐぅうううぅぅ

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