宿屋の三男キースの証言

モイラは採掘場の行き帰りには必ずトロル岩を通ってました。

クレイグ兄さんがあそこにいたのは、モイラを心配してたからだと思います。

モイラが泥炭採掘に行くようになってたのは半年前です。

うるさい客がうちに通ってくるようになったからですよ。

昼間から酒飲んで、寂しいのか母さんや俺たちに酔って絡んでくるんだけど、泥炭の権利者で金払いがいいから、文句言えなくて。

モイラがああいう客のあしらいなんてできるわけないから、母さんはモイラを店の奥に引っ込めたんだけど、あのおっさんが粗相してスコッチをぶちまけた時、モイラが条件反射で裏から出てきちゃったんだ。モイラが無心に足下やら腰のあたりを拭いてるのを見て、おっさん気に入っちゃって。その日からモイラを呼びつけて髪を触ったり腰に手を回したり、膝の上に乗せようとし始めたんだ。危険に感じたから、その客がいる間はモイラを店にいさせない方がいいと判断して、母さんはモイラに「お前も一人前の働き手なんだから兄さんたちを見習って泥炭を取っておいで」って外に行くよう仕向けたんだ。もちろん、女のモイラが一人で泥炭を採れるわけないから、適当に時間を潰させればいいと思ってたに違いないよ。わざと使えない採掘ナイフを渡してたんだから。空の樽で帰って来たのを見たとこで怒らなかったし。モイラの身の安全を確保できればそれでよかったんだ。けど、半月ほどしてからモイラは泥炭を本当に集め始めたんだ。

初めは片手の平に収まるほどの量のパラパラで使い物にならない状態で。刃がボロボロでまともに削れないナイフだからきっと泥炭採掘で採り尽くされたあとのカスを集めてきたんだろうね。

モイラは人を疑うことを知らないし、言われたことはなんでも全力でやろうとするから、僕は止めたんだ。「泥炭なんて採らなくていいから、お前は少しお空を見てればいいんだよ」って。

そしたら「お母さんは泥炭がひつようであたしにおねがいしたんでしょ。お母さんこまるでしょ」って言うんだ。

モイラには裏表がないから、他人の建前と本音もわからない。可愛いけど、こういう時、僕はなんて言っていいのかわかんなかったんだ。だから「トロル岩に妖精が住んでるって知ってるか? その妖精に会えば泥炭を今よりいっぱいもらえるだろうから、モイラは妖精を見つけるんだ」って言ったんだ。子供騙しだけど、モイラには昔からそれが一番効果あるから。

え? うるさい客はその後どうなったかだって?

二月くらいしたら、ぱったり来なくなったね。うちに飽きたんじゃないかな。

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