現場に駆け付けた自警団の一員の証言

いやぁ、クレイグのところに俺ら村の自警団が到着した時には、もうできることはありませんでしたからねぇ。あ、クレイグってのは腕を切られた奴のことです。

クレイグの腕はこの肘を曲げる部分……、前肘部ぜんちゅうぶって言うらしいんですけど、手前の辺りからすっぱり、両方。ひどく切味のいい刃物で切断された感じでしたよ。

でも切られた腕が見つからなくて。

俺、あの宿屋の二軒隣に住んでるんで、兄妹とは面識ありましたよ。

クレイグは妹の面倒をよく見るいい奴でした。本当に、目に入れても痛くないってくらい、妹を可愛がっていた。

妹のモイラはね、なんていうか生まれつきおつむが弱いんだ。銭勘定や込み入った話は理解できないし、家族以外とはあまり喋れない。だけど、ゆるく波打つ赤毛に白い肌、緑がかった茶色い瞳なんか少し変わってて綺麗だから目立つ。黙ってニコニコしてることが多くて、人懐っこく覗き込んでくる癖があるんだけど、あれをされると堪らなく可愛いんで、モイラはわりと人気だったよ。

宿屋の女将さんはそんなモイラの将来を心配してたんだろうね。結構厳しく躾けてたように思うよ。

まあ、そうだよね。親父さんがいなくて、お袋さんまでいなくなったら、知恵遅れの妹を兄貴三人が世話しなきゃいけないんだもんな。モイラはむつかしいことはできないかもしれないけど、掃除や洗濯、簡単な炊事なんかは兄さんたちの分までこなせるように徹底的に叩き込まれてたみたいだよ。簡単なお使いくらいだったら、一人でも行けるようにはなってたね。

え? モイラとクレイグが特別仲良かったかって?

それはわからないや。歳の差?

えーたしかラナルドが二十一で、クレイグが二十、三男のキースが十八で、モイラが十六だ。

ラナルドと俺は学校卒業した後も家が近いから一緒に泥炭掘りに行ってたが、クレイグとキースは長男じゃないから学校で簡単な読み書きを習った後はずっと泥炭掘りに行っていたよ。

だから、仕事の習熟度でいうとあの二人の方がラナルドより少しだけ上だったかもしれないな。

泥炭ってのはさ、なるべく切れ味のいいナイフで地面を削るんだ。流れ作業をして少しでも効率よく掘り出せるように、一家総出で行うものなんだが、うちの村では各家庭から男手を募って協力してやるようにしているよ。

泥炭掘りの作業はとても一人じゃできないからね。

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