泥沼

百舌すえひろ

第一発見者の証言

ええ、最初に現場を見たのはあっしです。

あの場所はひどいもんでしたよ。

宿屋の次男坊が死んでたんでさ。

あそこの宿屋は親父さんが居なくなってから女将さんが女手一つで四兄妹を育ててたんだけどね。

息子が三人、ちと抜けた娘が一人。

親子五人で仲良くやってると思ってたんだけどねぇ。

次男坊があんな殺され方されちゃうなんてねぇ。

なにがあったらあんなことになるんだか、あっしにはさっぱりですよ。

当時の様子? あん時はね、泥炭でいたん掘りから家に帰るところだったんだ。泥炭がなんだって? ここいらは一年を通じて気温が低いし、湖畔だから水はけが悪くて枯れた植物がそのまま残るんで農業にゃあ向かない土地なんだが、その土を掘り返して乾燥させると良く燃える泥炭になるんだ。

それを近くの蒸留所に卸したり、各家庭で燃料として使うんだ。おっと、話がそれちまったな。ええっと、当時の様子だったな。

泥炭掘りからあっしンに帰る道すがら、『トロル岩』の崖の下を通ったんでよ。トロル岩ってのはね、あっしら村のもんで勝手に名付けた、崖の上にあるただ大きなだけの岩なんでさ。それでね、娘っ子の泣き声が崖の上から聞こえてきたんでね。あそこはめったに人が行かない場所なんだが心配になって向かったら、岩影に宿屋の末娘と両腕を切られた次男坊がいてね。次男坊は周囲に体液をまき散らして顔が真っ青になってるし、末娘は泣きじゃくるばかりで話にならん。まあ無理もねぇ。次男坊はもう助からないなと思ったが、あっしと同じように泥炭掘りしてた村の若いもんが崖の下を通るところだったんで、自警団を呼んでもらったんだわ。

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