私は思う

 ちょうど今から十五年ばかり前、惑星プリモのある星系からから離れたところに、一つの人工物が発見された。約秒速十七キロで飛ぶその人工物は、五メートル程度の大きさで、たまたまプリモとアネロが共同で運用する、宇宙天文台の観測で発見された。

 これがあと数十年早ければ、実物の側まで行って観測できたのだろうけれど、残念ながら、すでにその少し前には星間を自由に航行する船は失われていた。残るのは恒星間の決められた場所を、大雑把に跳躍する大型船だけだ。

 ただ、私が軍に入った八年前には、観測した航路の逆算からその人工物は地球から飛来した探査機で、記録を調べると『航海者』の名前が付いていたことが判明した。

 ギリギリ残っていた文献によると、二千年以上前に地球から打ち上げられた、最初期の惑星探査機だったらしい。

 地球人の故郷である太陽系の外縁の惑星探査を終了した後、探査機はそのまま系外へと飛び出していった。しばらくはデータを送り続けていたようだが、やがて電力が尽きてだ飛ぶだけの物体になってしまった。

 もっとも、まだ彼(彼女?)の役割は終わってはいない。

 ただ、いつ果たせるか分からない任務だけを抱えて飛び続け、今、私たちの目の前にいる。

 そう、私たち。

 私はアランチオネ人だ。

 アネロに住む人間のほとんどが、アランチオネ人だ。

 探査機がただ虚空を飛び続けている間、地球人と私たちは出会った。そして、不幸な戦いの後、講和を結びそれぞれの代表が調印をしたのが、この二つの星の間の軌道上だった。それは、初めて二つの種族が出会ったのとほとんど同じ場所だったといわれている。

 残念ながら、探査機の詳細の記録は戦争で失われてしまったから、細かいところまでは分からない。だが、大体の所は合っているだろう。

 そして、今に到る。

 むかし喧嘩した相手だが、私は別に講和に反対というわけではなく、仲良くすればいいとすら思う。

 地球人とアランチオネ人は助け合い、共に生きていく。元は同じ種族だったのだから。

 

 素晴らしい。

 

 けれども、私たちはアランチオネ人であり、地球人ではない。融和策といわれれば違和感が残る。

 同じではない。違う人類なのだ。

 では、やっぱり反対なのか、といえばそれも合ってはいない。

 ただ、単にアイデンティティの問題なのだ。

 だから、私たちは地球人の仲間として、アランチオネ人として、成すべき事をなさないといけない。

 異星人として。

 たとえ反乱と疑われようとも、私たちは敬意を払って地球人の探査機に、任務を果たさせてやらねばならない。

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