【短編】魔王候補転生記~新たな体を手に入れた俺は、この世界でリスタートする~

ミケネコ ミイミ♪

新たなスタートライン

(大丈夫……今日のために、いっぱい練習して来たじゃないか。それにこれが俺にとっての高校最後のレース)


 そう思い気合いを入れると、自転車を押しながらスタート地点へと向かう。


 この男は鬼道きどう架蹴流かける、十八歳で高校生だ。これは余談だが、名前……かなり当て字である。


 架蹴流は現在、地区で行われる自転車のレースにエントリーしスタート地点に立っていた。

 そして自転車にまたがり、スタートの合図を待つ。

 周囲には、架蹴流と同じ高校や他の高校の者たちがいる。

 観客も結構来ていて、辺りに声援が響いていた。

 そうこうしているうちに、バーンッとスタートの合図が鳴り響く。

 架蹴流は、その合図とともにペダルを思いっきり漕いだ。


(ヨシッ、いい感じのスタートだ! これならいける!!)


 そう思った瞬間、架蹴流の意識がとんだ。そしてそのまま自転車ごと、バタンとアスファルトに倒れる。


 ♤❇︎♢❇︎♤


 ……架蹴流は、真っ暗な場所で目覚めた。

 辺りには、黒い霧が立ち込めている。


(ん? ここはどこだ。暗くて、よくみえない)


 そう思いながら周囲を見回した。

 すると架蹴流の目の前に、美人で巨乳の魔族がいる。そして、ニコニコしながら架蹴流をみていた。

 架蹴流は、何が起きたのか分からず困惑している。


「目が覚めたのね。良かったぁ、ゼグゼブド様……。いえ、そうでした。肉体はそうでも……魂が違うのでしたわ」

「ゼグゼブド? それって……」


 何を言っているのか分からず架蹴流は、更に困惑し頭を抱えた。


「これは失礼致しました。私は、ミカル・セシカと申します。そして貴方さまの魂を、ゼグゼブド様の体に召喚させて頂きました」


 そう言いミカルは、ニコリと笑みを浮かべる。


「……ちょい待て! え、俺の魂が別の体に……」

「まだ混乱されているのね。んー、ちゃんと詳しく話した方がいいのかしら?」


 そう言いミカルは、架蹴流に詳しく説明した。


 ミカルがなぜ亡きゼグゼブドの体に、他の魂を召喚したのか。それは異世界の勇者により、ゼグゼブド・ディガイブが倒されたからである。

 それにまだゼグゼブドは覚醒していない魔王候補の一人で、どの候補者よりも能力が高かった。だが性格が優しく、騙され易かったために簡単に勇者に倒されてしまったのだ。


 そして、淡々とミカルは話している。


「ってことは……。ゼグゼブドってヤツは、死んで魂を呼び戻すことができなくなった。それで別世界から、魂の召喚をしたのか」

「ええ、そうです」

「なるほど……。で、俺は元の体に戻れるのか?」


 そう架蹴流に問われると、ミカルは首を横に振る。


「恐らく元の世界では、既に死後処理が行われているでしょう」

「待て、おい! 俺は……大事なレースの最中だったんだぞ!」


 そう言い架蹴流は、ミカルの胸ぐらを掴んだ。

 すると服がはだけ、まともに胸の谷間がみえる。

 それをみた架蹴流は、慌ててミカルを突き飛ばした。

 突き飛ばされたミカルは、架蹴流をみるなり顔を赤らめる。


「ああ……何ていうご褒美なのでしょうか。私をもっと痛ぶってくださいませ」

「あーいやそれは、ちょっと……」


 架蹴流は反応に困り顔を引きつらせた。


「そんなぁ……では、あとでお願いしますねぇ」


 そう言いミカルは、ウインクをする。

 そう言われ架蹴流は、とりあえず面倒なので頷いておいた。


「そうか……戻れないってことは、新たな体に転生したってことだよな」

「はい、そうなります。それと……ああ、そうそう。名前はどうしましょうか?」

「んー、元の名前は鬼道架蹴流だが。この体の持ち主は、ゼグゼブドって言うんだろ?」


 そう架蹴流が聞くとミカルは頷く。


「カケル様ですか……良いお名前ですが、弱そうですね。そうですねぇ、ゼグゼブド様が亡くなったことは知れ渡っていますので」

「弱そう……って。まぁいい……そういう理由なら、転生したってことで名前を変えるか」

「それがいいと思います。それでお名前は、何にするのですか?」


 そう問われ架蹴流は悩んんだ。


「そうだなぁ、前の姓を名前にして【キドウ・ロード】で、どうだ?」

「ええ、とても良いお名前だと思います」

「じゃあ、名前はこれでいいとしてだ。だけど、名前を変えても体はゼグゼブドだろう……大丈夫なのか?」


 そう架蹴流……いや、キドウが問いかけるとミカルは笑みを浮かべ頷いた。


「大丈夫ですよ。魂が入れ替わったせいか、以前よりも素敵なお顔立ちになられておりますので」


 そう言いミカルは、思いっきりキドウに抱きつく。

 抱きつかれキドウは、ミカルを自分から引き剥がし地面に叩きつける。


「ああ……これも良いですわぁ。もっと痛ぶってくださいませ」


 そう言われキドウは、深い溜息をついた。


「それで、俺はこれからどうすればいい?」

「そうでした。これから申請所に赴き、魔王候補者として登録をして頂きます」

「……結局は、魔王を目指さないと駄目ってことか」


 頭を抱えキドウは、ハァーッと息を漏らす。


「はい、ですので早く向かいましょう」

「そうだな。別の高みを目指すのもありか。前の目標は、レースで優勝。今は魔王になるという目標ができた。やるからには、全力でいく!」


 そう言いキドウは、出口へと向かう。


「あ、待ってください! 私も行きますので……」


 そう言いミカルは、キドウのあとを追いかける。

 そしてここから架蹴流はキドウと名乗り魔王となるべく、とんでもない見切りスタートをかましたのだった。

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