第11話「告白」
「あのさ、ちょっと話があるんだけど。」
深夜の駐車場。正雄と涼介に今日の調査結果を共有して、帰路に着こうと車に乗りこんだとき、思いがけず涼介が僕を呼び止めた。
「どうした?何か思い出した?」
運転席の窓を開け、僕は神妙な面持ちの涼介に問いかけた。
ドアの前に立った彼は少しうつむいて、一呼吸おいて話し始めた。
「実はさ、おれも、やったことある、かも。」
一瞬僕はなんの話かわからず困惑した。
「やった」って何をだ?!
「かも」ってなんだ?
パニックは顔には出さずに黙っていると、涼介は助手席に乗り込んで来ると、堰を切ったように語り始めた。
今日の物証分析の成果報告で僕が正雄と涼介に伝えた、メールデータがなっちゃんのPCから直接抜き取られた可能性が高いこと。それを僕がどうやって突き止めたのかを聞いて、涼介は以前、自分が犯人と同じ様になっちゃんのメールを覗き見たことがあることを思い出したというのだ。
「だってさぁ、会社のPCって仕事で使うものだろ?
だからメールだって仕事以外使うなってことになってるし。
ってことは別に見て良いって事じゃない?」
涼介はそう言うと一人で頷いた。
(おい、涼介、おまえは会社から支給されている同僚の手帳に何が書かれているか勝手に見るのか?仕事仲間のデスクの引き出しを勝手開けて中に入っているものを物色するのか?
会社の備品だからといって何でもして良いわけないだろ。プライバシーって知ってるか?)
僕は内心そう叫びながら、いつ「犯人は僕だ」と名乗り出るかとドキドキしながら、心のざわつきをさとられないように黙って聞いていた。
彼の弁明はこうだ。
なっちゃんは持ち前の快活な性格と行動力で、所属する管理課だけでなく部内の男子社員から人気を集めていた。それが同じ職場の先輩OLリサの目にとまり、イジメられていた。
なっちゃんは何も言わなかったが涼介はその事に気づいて、彼女に送られてくる意地悪なメールがないかチェックしていたのだと言った。
特に、なっちゃんが来るまで職場のアイドル的存在だったリサの取り巻きの男性社員達からのイジメが心配で、何かあってからでは遅いと思い見守っていたのだと言う。
涼介にとって、なっちゃんは妹のような存在だと言う。彼は彼女を「なつ」と呼び、彼女も涼介を「
そして涼介にやましい気持ちはなく、「なつ」には遠距離恋愛している彼氏もいる。ただ彼女には、彼氏にも話せないような悩みもあり、自分にだけは打ち明けてくれている。
涼介はその期待に応えたいという気持ちで彼女のメールを覗き見たのだが、今回の事件で自分がやりすぎていることに気づいた。決して悪気はない。ただ、その痕跡が僕の解析の邪魔になることを「心配」して打ち明けてくれたそうだ。
弾丸が無くならないマシンガンのように彼の弁明は続いた。僕は気が遠くなりながら、(やっぱり、容疑者は全員だな)と、気持ちを引き締めていた。
「も、もうわかったから。おまえの兄心は伝わったから。」
一向に終わりを予見出来ない彼の演説に呼吸困難になりかかった僕が
それでもまだ言い足りなかったのか、助手席から追い払おうとする僕に向かって、涼介は最後の一撃を見舞った。
「だってさ、俺、リサの元カレじゃん?
責任が、ね?」
(!!!!
二人は付き合っていたのか!?
知らないぞ! そんなの!!
って、元カレの責任てなんだ?!)
僕は気を失いかけた。
こうして怒涛の2日目の夜は更けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます