第9話 十年回顧

結局私は近所の人が発見し、病院へと戻った。病院に行くと弟がまだ寝ていた。救うからと手を取ると小さい目が開く。「みぃ、みんなぁわぁ」と粗い息遣いで話す弟にまた涙を流した。

 私たちは秋田にいる叔父の家に住むことになり、私は短大に進んだ。そしてソフトボールサークルに入り、謳歌した日々を送った。卒業後はジムで働くことになり、日々運動をしていた。弟は秋田の高校に進学したが、高3の時事故で歩けなくなってしまった。今は車椅子で生活しているが、持ち前のPC技術でIT関係の仕事をしている。

 今日は父が言った10年後の4月1日だ。びくびくしながらも私はジョギングをするふりをし、弟を見張っていた。一度、弟に話したことがあったのだが、「あっそ」と素っ気ない態度をとられた。それはそうだ。私の心が不安定な状態で見た夢と片付けるのが普通だろう。だが、私はこのために生きてきたのだ。もしかしたらこれを生きる理由にして今の今まで私自身をだましてきたのだろうか。11時を過ぎて私はさらに心拍数があがった。

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