第3話 他に逃げ場はなかった

 男はそして、脱走を決意した。

 檻の近くに看守を一人呼び出して、たやすく絞め殺した。奪い取った鍵ともぎり取った指を持って、檻の鍵を開け、施設のドアを開けていった。どこがどう出口へつながっているのか分からなかったが、とりあえず外へ、外へと男は向かった。

 ここは天国なんかではない。

 男は運が良かった。”EXIT”と書かれた扉までやって来れたのだ。扉にはロックがかかっていたが、そこでも、持ってきた看守の指を認証にかざすことでロックを解除することに成功した。

 これを開ければ、外に出られる。

 重厚な扉は、スライド式だった。男は取っ手を両手でつかみ、すぐ横の壁へと加える脚力と共に、身体全体の力で扉を開けようとした。

 まったく動かないかと思ったが、最大限の力を出して、ようやく数ミリ、扉は開いた。

 開いた!

 何週間も食べ物を口にしていない男の目に、精気が宿った。極悪囚の魂が、業火のごとく燃える。そこから扉は一センチ、二センチと順調に開いていく。ようやく、この偽物の天国から外へ抜け出せるのだと男は思った。

 が。

 ——ッ。

 壁を蹴っていた方の足首が、刹那に切られたかのような気がした。痛みや何かは特になかったが、何かこう、スッと何かがそこを通って行った、そんな気がした。不思議な感覚だった。

 男は壁を蹴るのをやめ、自分の足首を見た。

 足首は横に一線を書くように、赤くなっていた。まるでそこだけ日焼けしてしまったかのように。熱くはないが、ジン、と内側から不思議な熱を感じる。まさか——。

 男は恐る恐る、数センチ開けた扉の隙間から、外を見ようとした。その足首の赤くなりようと内側からの不思議な熱から、扉の外の状況を想像する。この施設がどういう考えのもとに作られたのか、その真実に男は、顔を近づけていくようだった。

しかし、その数センチの隙間に右目を持ってくる前に、後ろから、「いたぞ!」という追手の声が聞こえてきた。稲妻のような声で、鬼の形相をした看守たちが、数えきれないほどこちらへ走って来ていた。

 ただでさえ、男は囚人の中で謀反者だった。そんな謀反者がこの施設の仕組みを知り、逃げ出すというタブーを犯そうとしているのだ。

 まずい!

 男は必死に扉を開けた。もう他に、男に逃げ場はなかった。

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