第8話

「状況を整理してみよう!

①幽霊屋敷を訪れた者に障りがある

②幽霊屋敷からかげむしと呼ばれるものが出てくる

かげむしに捕まると連れて行かれる

明確なのはこの3つだね!

屋敷で発生した火事により犠牲になった人が変じたのがかげむしの始まりだろうね!ボクは焼死とか絶対ヤだよ!苦しそうだもん!

まあそれはいいや!

ボクが注目したのは③の連れて行かれるってところさ。このかげむしってやつは標的の身体ごと持っていくタイプみたいだぞ、てね。焼失した屋敷跡で最初のかげむしに遭った人は行方不明になってるんだろ。そのあやくらって奴も言ってたんだろ?行方不明者は連れて行かれたんだって。だからかげむしが仲間を増やすためには体ごと必要なんだろうね!

そこでボクは思ったのさ!死体が五つも出てるのはおかしいぞってね!

では、死因について見てみよう!

自宅の窓からの転落。

道路に飛び出して自動車と衝突。

神社の階段で足を滑らせた。

貯水池を囲むフェンス上の有刺鉄線で縊首。

この四人はたき君と一緒に肝試しした子達だね。ご愁傷様!でもこれって事故でも充分有り得ると思わない?

かげむしに追いかけられたとしても捕まってはいないのさ!逃げる途中で起きた不幸なアクシデント!

そしてお酒で色々ダメになったおじさん!

さて問題です!

亡くなった子供達の中で、明らかに人的要因が絡んでいるのは誰でしょう!」

ここまで立て板に水の勢いで捲し立てたみくらが唐突にクイズを出題してきた。

「……自動車と衝突した子じゃないかね。道路を走る車とぶつかったのならば必ず運転手がいた筈だ」

つぐなが社長が答える。

「正解者に拍手!その通り!

これで一つの仮説が立てられる。

自動車の運転手は件のおじさんだった。おじさんは飲酒運転で轢き逃げをした。後ろに手が回るのを恐れたおじさんは自主的に行方をくらました!潜伏先に選んだのは地元でも忌避される幽霊屋敷であったのさ!ほとぼりが冷めるまで身を隠そうと画策するもそうは問屋が卸さない!轢き逃げされた被害者の家族は犯人が薄々分かっていたんじゃないかな!トラブルメーカーで有名だったら尚更だ!腸が煮えくり返る思いの家族は法の裁きを待てなかった!つまり復讐を企てたんだ!

おじさんの家には督促状なんかも届いていたんだろ?金銭トラブルもあったに違いない!でも真っ当な金融機関が融資してくれるだろうか?怖い集金人が自宅を訪ねていたかもしれないね!被害者家族は親切なふりをして教えたんじゃないかな、きっと坂の上に居ると思いますよ、ってね!」

「つまり……死体が発見された人達に関しては怪異が直接的な死因にはなっていないと?」

たきは口を挟んだ。

「ボクはそう思ってるよ!たき君が個々の時系列とか詳細に調べてくれていたらハッキリしたんだろうけどね〜。コンビニ店員からの話を鵜呑みにするとかたき君らしからぬ雑さだね!」

「仕事でもないのに労力を割きませんよ。何の利益にならない」

肩をすくめるたき

「そりゃそっか!ま、ウチの顧客でもないからボクは好き勝手仮説を立ててみただけなんだけどね!真相は全然違うかもしれないけど!これにて一件落着!」

「落着どころか不時着しているが!?」

ショックを受けた顔になるつぐなが社長。

「ええい長広舌をふるった挙句に迷宮入りさせてどうする!怪異が全く関係していないわけではないのだろう?」

「そうだとも!だからこそボクはたき君の無事の帰還を喜びたい!連れて行かれなくて本当に良かった!あやくらにも称賛を送ろう!今回あいつ何もしてないけど!」

まるで知己に対するような言い回し。たきは尋ねてみた。

「もしかしてお知り合いですか?」

「親友ではないけどね!知人ではあるよ!ここ数十年会ってなかったけどやっぱりまだ生きてたんだね!」

幼い外見であるものの、座敷童子。人間とは一線を画する年月の感覚を有している。

「妹ちゃんもまだ人形ってことはまだ身体を諦めてないのかな?どうかな?今度ひらさかクリニック紹介してあげようかな?さか先生ならぴったりの身体を誂えてくれるだろうからね!あっ、でもたき君を気に入ってるみたいだから昼ドラ的展開になるかもね!ごめんね!」

「勘弁してください、僕には妻と娘が居ますから。家内安全を乱すようなトラブルは起きてほしくありませんよ」

本心から言う。

「うんうん一途なのは良いことだ!流石雪女に惚れられるだけはあるね!」

このまま喋らせているとどんどん話が脱線しそうだと危惧したたきはチラリとつぐなが社長と視線を交わす。

「あー、コホン。みくら君。すっかりカップが空になっているがおかわりはいるかね?」

「おや本当だね!ボクとしたことが本題をすっかり忘れていたようだ!ごめんね!」

「いえいつものことなので気になさらないで下さい」

「正直者だね!」

みくらは天井を仰ぐ。

「よし、仕事モードに切り替えよう!本題に入らせてもらおうじゃないか!」

おかわりにぜんざいを所望したみくらは細い脚を組んで「今回君を呼んだのは他でもない」と言った。打って変わって落ち着いた口調になる。童女の形ながらも堂に入っていた。

「君に調査を頼みたい案件があってね。契約者は大学生なんだけど、自宅で物が隠されるとの事だ。どうやら昔飼っていた犬の仕業だろうという。今のところ人的被害は出ていないから、気楽にやってね?」

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