土、草、風

 土と草のにおい。そこでおかしいと感じた。

 冬弥が走っていたのは、駅前から住宅街に入った道。それなりに整備されていて、田舎のような獣道を走っていたわけではない。

 コンクリートの地面に寝転んだところで、土だの草だののにおいがするわけがない。


 起き上がった。

 草原の中に真っすぐ伸びる、舗装されていない剥き出しの土の一本道。

 冬弥は呆然と、一点に集約した道の先を見つめた。


「ここは……?」


 こんな場所は知らない。あるはずがない。

 不気味な風が吹き、草が逃げるように一斉に波打った。

 妙な寒気に襲われ、汗が一気に冷たくなった。


「なんだよ……なんだってんだよ……」


 夜空の天井と、草原の絨毯。地平線の先は、何もない。

 これも、夢なのだろうか。悪い夢の続きなのだろうか。

 起きたら、朝になっていて、また会社に行く。


「起きてくれ……頼む」


 早く、覚めてくれ。

 冬弥の願いを吹き消すような、ぬるい風が首筋を舐めた。


 突然、地響きが鳴った。遠くで起きた地震の初期微動のような、気持ちの悪い弱い振動が冬弥を揺らす。その揺れは、しかし、主要動のように一気に到着するのではなく、徐々に大きさを増していった。

 揺れが最大になった時、突然、冬弥の目の前の地面が盛り上がった。


「うわ!?」


 驚いて飛びのいた。盛り上がりは冬弥の背丈ほどの大きさになると、一気に土を散らした。

 そこには、赤い冠をつけた骸骨が、目の奥に赤い光を宿して佇んでいた。


 骸骨が、冬弥に両手を伸ばして、ゆっくりと一歩踏み出した。

 着地の振動が骨を伝わり、顎の骨がかくかくと動いている。

 飛び掛かってきた生首の天野と重なり、冬弥は全身が震えた。


「く……来るな!」


 震える声を絞り出したところで、状況は変わらない。

 夢なら覚めろ、覚めろ、覚めろ。

 骸骨が一歩、また一歩と歩み寄ってくる。踏み込むたびに、かく、かくと揺れる動きが、不気味さに拍車をかけている。


「あ……あ……」


 冬弥は、骸骨と同じように震えで揺れながら、後ずさった。

 強い風が吹いて、亡者のような唸り声になる。


 背中が、何かにぶつかった。


 ゆっくりと振り返ると、青い冠をつけた骸骨がいた。

 青冠の骸骨が両手を伸ばした。

 肩を掴まれた。

 前から、赤冠の骸骨の手が伸びてくる。


「うわあああああああ――」


 二体の骸骨に、噛みつかれ、身体が痺れた。

 指先一つ動かせず、声も出せず、しかし瞼を閉じることも許されず、自分の肉が食いちぎられ、血がほとばしるさまを、その眼に焼き付ける他なかった――。


 冬弥は、申し訳程度の肉を纏った無残な骨に成り果てた。



 ― GAME OVER ―

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