第31話 角の秘密

 花言葉を教えてもらった後、いい時間だったのでお暇することに。

 各々の家庭料理の美味そうな匂いが溢れる通りを、のんびり歩いた。

 たっぷり香りを堪能していると、相変わらずドアのない家に着いた。

 俺が帰ったのを認識したか、獣挽きから目が出て俺を見てくる。ひとしきり俺を眺めるとスッと戻っていく。


「何がしたいのかね」

 生きているし、何らかの意識もあるようだがいまいち何を考えてるかわからない。まぁ、そのうちわかるようになるか。

 寝床に腰掛け、アームデバイスを操作する。

「防具に関してはシュマが分かる者を紹介してくれるようだから、今はとにかく武器だな」


 アームデバイスに保存したカタログを呼び出し、目を通す。ちなみに保存法は偶然見つけた。懐にしまおうとしたらデバイスに保存するか文字が浮かんだのだ。便利だ。あまり多くは入れられないようだが。

 カタログの画像をスワイプしながらぼんやりと考える。


 女性でも扱える重さで、エンジュのように武器の技量が足りない者でも扱えるものと言えば、やはり鈍器だと思う。棘が付いていれば尚いい。技量が要らない、誰でも使えて防具の上からでも致命傷を狙える。

 機獣相手は俺が対処するし、エンジュに持っていて欲しいのは対人用の武器。

 剣などの刃物は扱うのにそれなり以上の技量が必要になる。誰かに師事を乞うのも手ではあるが、付け焼き刃は逆に危険に思う。だが技を絞って覚えて貰えば悪くは無いか。


 そして、部屋のほとんどを占領している赤黒い大角を見ていると、刃物も悪くないのではと何となく思ってしまう妖しい輝きを放っている。

「実際のところ、どれほどの硬さだ?」

 黒のナイフではあっさり切断できたが、それ以外は特に試していない。一本手元に持ってくる。ひんやりとした命の温もりを失って久しい大角を、思いっきり握り込んでみた。


「⋯⋯お?」

 単純に硬度を確かめたかったのだが、もっと面白いことを発見できた。この角自体の硬さは勿論だが、握り込んでそろそろ割れるかという瞬間に急に固くなる感触があった。

 もしやと思い、いい時間なのでご近所さんに配慮して角にデコピンをかましてみた。


「やはりか」

 角の表面にが現れた。俺のかなり力を込めたデコピンでも傷も凹みも無い。

「力場発生の能力が残っているな」

 体内に発生器官がある訳ではなかったようだ。

 討伐後に黒のナイフで切ってる間は力場が発生しなかったが、何か条件でもあるのだろうか。若しくはこの黒のナイフが特別なのか。

 兎に角あの時、角を持って帰る判断をした俺を褒めてやりたい。エラー個体の角は防具にするには最適と言って過言じゃ無い。

 エンジュの旅の安全性が飛躍的に上昇するぞ。


「問題はどこまで加工して良いかというところか」

 あまり分厚いとエンジュが装備するには重くなり過ぎてしまう。切り離した場合、どの位の大きさまでなら力場を発生させられるのかも気になる。

 他にも色々試してみたい事もある。どの程度の衝撃で破れるのか、力場発生の能力がいつまで角に残ってるかも知りたい。

 いざという時に力場が展開されないと、その時点でエンジュが詰んでしまう。

防御だけでなく、この力場を攻撃に転用できたりしないかも確かめたいところだ。

 俺一人で調べるのは難しいかもな。


「⋯⋯プルナにあの発明家なる人物を紹介してもらうか」

 取り敢えず後のことは明日考えるか。今できることはもう無い。

 デバイスをスリープモードにし、角をはじに戻す。

 白い素材で造られた寝台に身を倒す。

 発明家に会いたいのもそうだが、薬師の店にも顔をださねばな。依頼したい事があるらしいし、俺もキノコの事を詳しく聞きたい。

 もぞもぞと寝にくい寝台の上で今後の予定を考えてしまう。

 ⋯⋯敷くものくらいは買うか。

                   

                    ◇


 朝になった。

 お隣さんはもう起きてるだろうか?

 ドアのない出入り口から顔を出す。隣では何か作っているのか、忙しなく動き回ってる音と美味そうな匂いが漂っている。

 起きてるようだな。忙しいようならまた後で聞きに来よう。一応声だけかけておくか。


「プルナ。今大丈夫か?」

「お、イオド君おはよー! 少し待ってね。朝ごはんもうすぐできるからさ。よかったら一緒に食べる?」

 毎回飯を貰うのは気が引けるが、前回とも違う芳しい香りに否とは言えない。


「おはよう。たびたび悪いな。頂かせて貰う」

 座るよう促されたプルナの家の食卓に着く。

「今回も美味そうな匂いだが、前回と違うな」

「今日のは朝だし流石に普通に配給されてる肉だよ。創作はしっかり食べてからさ。⋯⋯朝っぱらから泡吹いて倒れたくないしね」

 確かに四六時中実験してるわけはないか。


「調味料に知り合いの拾い手に貰った大型機獣の骨を粉にして入れてるけどね」

「⋯⋯大丈夫か? また倒れても知らんぞ。ちょっと頼みたい事もあるしな」

「何回か試したから大丈夫だと思うよ! 毒抜きもきっちりしたし。料理のね旨味が増す気がするんだ! 頼み事って?」

 まぁ、本人が大丈夫と言うならそれでいいんだが。⋯⋯この涎が出そうな香りの正体は謎の大型機獣なるものの骨か。味によっては後で少し貰いたいところだ。

「あぁ、エラー個体の角を手にれただろ? どうも能力が残っているみたいでな。詳しい事を調べたいんだが、俺一人では無理がある。だからプルナが前に言ってた発明家なる者を紹介して欲しい」

「いいよ! エラー個体の能力を調べられるなら、あの子も大歓迎だと思うよ! 食べ終わったら案内するよ」

「ありがとう、助かる」

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