第32話 発明家の登場

 朝餉も食べ終わり、プルナに発明家の家まで案内して貰う。

「少し待っててくれ。相談するにもサンプルぐらい持っていこうと思ってな。先っぽをちょっと切ってくる」

「りょーかい」


 家に戻り、黒のナイフで大角の先っぽを切り付ける。

「ん? 力場が発生するな」

 黒のナイフの切れ味が良すぎるせいで、ほとんど力場の感触はなかったが表面が一瞬揺らいだ後、力場が割れるのが見えた。

 討伐直後の剥ぎ取り時には力場が発生しなかったのは確かだ。発生してれば流石にわかる。

 黒のナイフで切る時は発生しないのかと考えていたんだが、分からなくなったな。

「やはり、俺だけではわからないな。プルナに紹介を頼んだのはいい判断だろうな」


 切り取った角の先っぽを懐に仕舞うと、待っているプルナの元に戻る。

「すまない待たせたな」

「ううん、大丈夫だよ。何かあったの?」

「角を切るときにちょっとな。発明家に相談したい事が増えた」

「ふぅーん。その子機獣に凄く詳しいから色々聞くといいよ。近くだからすぐ着くよ」


 プルナに案内された発明家の家は、本当に近かった。

 俺やプルナの家から少し歩いた、家と家の隙間のような路地裏に怪しげな雰囲気の家があった。

 何だかその家の周辺だけ薄緑の靄が漂っていて、ヤバい場所感が半端ない。


「⋯⋯凄い家だな。ここだけ周りと雰囲気が違い過ぎはしないか?」

 大昔に居たとされる魔女の館がここだと言われたら信じてしまいそうだ。

「また何か薬品が漏れてるのかもね。まぁ、本当にヤバかったらテミス様が衛兵を派遣してくるから、放置されてるなら大丈夫よ」

 絶対に大丈夫ではなさそうだが、プルナが物怖じせず靄を突っ切ってやはりドアのない家に入っていく。


「メギス〜、居るんでしょ? ちょっと会ってほしい人連れてきたんだけど」

 俺もプルナに続いて一歩踏み入る。

 室内はワンルームで、雑多に物が置かれて足の踏み場が殆どない。機獣の素材や発明品だろうか、何かの機械が積み上がっている。

 プルナの背中越しに、部屋の奥の方でごそごそ誰か動くのが確認できた。

「ん〜? うるさいなぁ。今検体の反応を待ってるとこなんだけど⋯⋯」


「エラー個体の角を調べて欲しいって人なんだけど」

「エラー個体だって!? 超激アツな素材じゃん! 早く出して! 見せて!」

 がしゃがしゃと積まれたものを崩しながら登場した発明家は、なんと言うかとても小さかった。

 肩までの桃色で子供のような質感のサラサラの髪。クリっとした大きな目に、キュッとした口元。背も小さい。俺の身長の半分くらいじゃないか?

 端的に言って子供が出てきた。


「プルナ? 俺は角を分析できる人物を紹介して欲しかったんだが、子供じゃないか」

 俺がプルナにどういうことだと疑問を送ると、

「これだから見た目で判断する奴はよ。ここは階層都市だぞ? 見た目通りの年齢じゃない奴も存在するに決まってるだろうが。足りねぇ頭でよく考えろや!」

 見た目を裏切るとんでもない口の悪さで罵られた。だが確かに見た目で侮った発言をしたのは全面的に俺が悪いな。

 何よりプルナが俺を騙す理由もないのだし。


「君の実力を見る前に、見た目で判断しようとしたのは大変失礼だったな。悪いと思ってる。プルナもすまなかったな」

 俺のように見た目で正体の掴めない存在だっているのだから、俺以外にも居ると想定しないといけないな。しっかりと頭を下げて謝る。恐らくは遺伝子調整された、長命種。寿命を延長された彼等のような存在は若い時間が長いと聞く。


「へぇ、ちゃんと頭下げれるんだな。ま、見た目で侮ってくる奴の中ではマシなほうだな」

 俺が素直に非を認めたのが意外だったのか、まだ若干怒りの感情を滲ませているものの多少溜飲を下げてくれたようだ。桃色の髪を無造作に掻きながらこちらを見定めるように濃紫の瞳で見つめてくる。


「ごめんね! 先に説明しておけばよかったね。あたしは見慣れてたから気にもしなかったよ。イオド君もあたしには謝らなくていいよ。説明不足だったし」

「いや、謝るべき時はしっかり謝らないといけない。俺はそう教わった」

 誰に教わったかは思い出せないが、大事なことだと染み付いてる。


「うちも少し感情的過ぎたよ。そこまで素直に謝られると怒ってるのが馬鹿らしくなる。⋯⋯うちはメギスってんだ。一応発明家。エラー個体の角持ってんだろ? 早く見せてくれよ!」

「俺はイオド。プルナのお隣さんだ。⋯⋯これを調べて欲しいんだが」

 懐から赤黒く光る角を取り出し、散らかったテーブルに置く。

 出会い方は最悪だったが、何とか目的は達せそうだ。

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