第29話 武器を作りたい

 晴れて正式な住民になれたわけだが、俺の住居は特に変更予定はないらしい。別に構わないが、シュマが少し哀れんだ目を向けてきた。特に問題はないが。

 今はシュマと別れ巨大な双角をズリズリ引き摺りつつ、好奇の眼を向けられながら家路を急ぐ。取り敢えず角を家に置いたらエンジュに報告に行こうと思う。


 討伐は時間もかからず終わったから、まだ遅くはない。迷惑にはならないだろう。

「あ、無事帰ってきたんだね! また随分でっかい荷物を引っ提げてるねぇ」

 我が愛しの住居前に辿り着くと、角を引きずる音に気づいたのかお隣さんのプルナが顔を出した。


「あぁ。問題はなかった。それと済まない、肉と内臓は全て納品されて手元にはない。流石に角は料理には向かないか?」

 約束していた素材を持ち帰れなかったことが悔やまれる。

「まぁ、角肉のエラー個体は珍しいしね。今回のは特に異常だったらしいし。あと角は粉にすればいけるかもだよ。そんな記述を前読んだんだ。健康にいい角とかあるらしいよ」

 粉にすればいけるのか。調味料的な使い道なんだろうか。


「この角は装備に加工しようと思っていてな。余ったら粉にしてプルナに分けよう」

「いいの!? かなり貴重そうだけど」

「構わない。この角の所有権は俺にある。プルナの役に立つはずだ」

 角の粉に健康効果などがあるのならいい研究になるだろう。


「ありがとう! 大事に使うよ! ⋯⋯隠し味的な感じがいいかな。風味によってはメインの味にしてみても⋯⋯」

「あとテミス様のとこにも研究者らしき者もいるようだぞ。内臓を解析に回すと言っていた。プルナが言うほど悪い状況ではないんじゃないか?」

 温室で何か育てていたし、村の持続可能性について村長であるテミス様が考えていないわけはないと思う。


「う〜ん、彼らはねぇ。テミス様に命じられれば解析も開発もするみたいだけど、村のためにというより完全にテミス様のためらしいのよ。前も言った発明家の人が愚痴ってた。その人も前はそこに所属してたみたい。テミス様はあまり住民の行動に干渉しないから好きにさせてるみたいでね。そういうわけであまり期待はできないのよ」

 ふむ。彼らの研究が村の役に立つことはあっても、結果としてそうなっただけで目的はテミス様を満足させたいが為という理解でいいだろう。


「なるほどな。自主性を育てたいが為に放任主義をしていたら逆に主体が無くなってしまったと。そのうち、その発明家とやらにも会ってみたいものだ」

「素材とか持っていったら喜ぶと思うよ。今度紹介するね」

「あぁ、その時はよろしく頼む」


                   ◇


 プルナと別れ、嵩張る角も家に置いてきた。今はエンジュの家に向かうべく歩いている。正式に住民になったのだから、この村に何があるのかとエンジュの家に向かいつつ見てまわっている。

 大抵は道端で露店を開いて、採集してきたキノコやちょっとした遺物を売っていた。それらを横目で見ながら歩いていると、少し気になるものがあった。


 暇そうにしているおっさんが露天に出してる商品に記録媒体が一つあり、『武器カタログ』と名札には書かれている。必要ポイントもそこまで高く設定されていない。

「なぁ、このカタログにはどういった武器が記録されてるんだ? 作り方も載ってたりするのか?」

「ん? そうだな確か近接武器一覧みたいな内容だったぞ。ほぼ図鑑だな。作り方は載ってなかったよ」


 近接武器か。作り方が載ってないにしてもエンジュの装備造りの参考にはなるかもしれないな。払えないポイント数でもないのでアームデバイスを翳して購入すると伝える。

「おぉ、兄ちゃんありがとよ。売れ残ってて困ってたんだ。作り方が載ってないのがネックでね。興味を惹かれて止まる奴もいるんだがダメだったね」


「丁度こういうのを探してたんだ。こちらこそありがとう」

 気持ちよく挨拶を交わし、ほくほく気分で歩き出す。

 この村で売ってるような槍や大剣は、エンジュには扱えないと思っていたんだ。エンジュもちょっとした刃物くらいは持っているようだが、これから色々探索するのに多少の自衛手段は持っていて欲しい。女の細腕でも扱えるような武器が見つかるといいのだが。

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