第28話 テミス様に報告

 ほぼ村の中心と言って良いだろう、テミス様の家は三階建の白亜の要塞といった風の建物だった。

 堅牢な家屋の周りを白い素材の硬質な柵で囲まれていて、何棟か建物が密集した複合建築と思われる。広い庭らしきものもあって、明らかに重要な建物なのだと理解できる。


「あまり家っぽくはないな」

 室内は違うのかも知れないが、外観からは親しみやすさは皆無で物々しいとすら思う。

「そりゃな、有事には避難所にもなるし衛兵の訓練施設が併設されてたりするから家というか小さめの城みたいなもんだぜ。おら、入るぞ」


 シュマがアームデバイスを門に付いた装置にかざすと、何か外れる音と共に門が開く。家の素材になったり門に柵にとこの謎な白い物質は何なのだろうか?いつか聞きたいものだ。

 門をくぐると右の方に温室らしきものがあり、中で何人か作業しているのが伺える。それを横目で見ながらシュマについて進む。家に入る前に玄関前に角を置いておく。流石に邪魔すぎるしな。


 白亜の要塞の中は外観よりは幾らか人の温もりが感じられる装いだった。ただ実用重視なのか装飾などはほとんどなく、数点ほど遺物が廊下に飾られてるくらいの広い玄関ホール。

 シュマは一階の部屋の中程にある大階段に迷いなく進み、二階へと昇っていく。

 階段を上り切った先は目の前と左右に通路。そのまま真っ直ぐシュマは行き、突き当たりの軽く植物模様に装飾の施された扉の前で止まる。


「位階の三シュマ、イオドと共に戻りました」

「入ってください」

 中からテミス様の鈴の様に透明な声。

 扉を開けたシュマに続く。

 ここまで通ってきた部屋や通路も白く無機質な雰囲気だったが、この部屋はより顕著に寒々しいくらいの白さを感じてしまう。

 窓もなく、光源がどこにあるか分からないのにしっかりと広い部屋は明るい。家具はテミス様が腰掛ける優美な乳白色の細脚の椅子。それとティーセットが置かれた床から生えた木の様なデザインの脚がついたテーブル。


「よく無事に戻りましたね。まぁ、貴方が敗北するなど万に一つもあり得ないとは思いますが。早速、機巧師を派遣し修理させようと思っていますが、どうも納品された肉の品質が通常種より相当上等みたいでして。貴方にこれからも定期的に狩って欲しいと思うのですがどうです?」

 こてんと首を傾けて聞いてくるテミス様。


「極たまになら構わないが、俺はエンジュと記録媒体を探しに行かねばならない。あまり他の事に拘っている訳にもいかない。命令をされたとしても、俺にも引けないラインはある」

「そうですよねぇ。そうなると討伐隊ではなく狩り手の者に行って欲しいのですが、貴方はどう思います? かなり硬くて攻撃が通じないという話でしたけど」


 ふむ、討伐隊を知らないが要するに俺の様な特殊な存在では無く、狩り手のような通常の人類に打倒可能か聞いているのだろう。それも一回こっきりではなく恒常的に狩り続けられるものかと。

「エラー個体の表面は特殊な力場が張られていた。極めて硬質で俺の割と力を入れた打撃にも耐えていた」

「貴方の打撃にも耐える力場ですか。ちょっと狩り手たちには厳しいかもですね」

「一撃耐える強度は高いが、連続した衝撃には弱い様に俺は感じたがな。力場が剥がれてしまえば別段硬いわけでもなかった。通常種を知らないが、力場さえ何とかすれば狩り手でも十分いけるのではないか?」

 実際、力場が破れた後はあっさりした幕引きだった。


「ふぅん⋯⋯シュマ、貴方はどう感じましたか? 彼の戦いを観て」

 話を振られたシュマは僅かに眉間に皺がよったが、すぐ表情を戻して話し出す。

「こいつ⋯⋯イオドの戦闘力が尋常でないというのを考慮に入れましても力場の無い状態のエラー個体の身体は特別硬いとは思いませんでした。回収部隊の皆も普通に剥ぎ取っていました。武装をイオドの獣挽きの様な物を開発するか、どうにかして力場を無力化する手段が見つかれば狩り手にも狩猟は可能かと」


 力場の無力化か。それができれば確かに俺みたいに正面から戦う必要は無いだろうな。己が言及されたからか、獣挽きが眼玉を出してシュマを見始めた。

「貴方たち二人の意見は力場さえどうにかすれば狩り手にも狩猟は可能ということね。それなら今回持ち帰ってもらった素材の中から力場に関係ありそうな部位を調べて貰おうかしらね。内臓も持ち帰ったわよね?」

「今回は持ち帰れるものは全部持ち帰っています」

「ん。上出来ね。それじゃあ、分析結果が出るまではこの話は保留ね。エラーコードの分析は出来てるからエラー個体出現は任意にコントロール可能だけど当面の間は出現しない様にしとくわ。あぁ、それと」

テミス様が近づいてきて俺のアームデバイスに手をかざした。画面上によくわからない文字が流れると一瞬グリーンに光った。

「おめでとうイオド。これで貴方は今日から正式な村の住民よ」

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