第27話 角が欲しい

 俺の思った通り、黒のナイフは硬い角を物ともせずサクサクと切り落としてくれた。ただ刃が短いからかなり切り難かったが。

「あんたスゲェ切れ味のナイフ持ってんな! 遺物か?」

 禿頭が少年のように目を輝かせる。

「そのような物だ」


 俺が何千年も眠っていたと言うなら、このナイフも十分遺物と言っても過言ではないだろう。

 角を二本とも切り落とした後、回収部隊の人に纏めるためのロープを借りた。どう持って帰るか思案していたら見かねたのか短髪の女性隊員が恐る恐るだが貸してくれた。礼を言うと以外そうな顔で微笑んでくれた。


「うん。こんなものか。ありがとう」

 しっかりとズレる事のないよう巻けた。さっきのロープを貸してくれた人が手伝ってくれた。助かる。


 俺の準備が終わったのをみて、皆が転移装置まで移動を開始する。

 俺も角と共に続く。大きさが大きさなので、転移装置までは引きずっていく。相当な硬さだから傷も付かないだろう。

「デケェ荷物だな。何に使うつもりなんだ? そんな硬さの素材は加工できる奴は村にいるかどうか分からねぇぞ」

 ずりずりと身長以上に大きな角を引きずる俺に、シュマが呆れた顔を向けてくる。


「この後村に戻ればエンジュが行動を開始するだろう? 彼女は危なっかしいからなこの角で装備を作ってやろうと思ってる」

 行動力の割にミスが多い彼女のことだ。運が悪ければあっさり死ぬ事は想像に難くない。この強靭な赭角を用いた装備なら彼女の生存率を上げてくれることだろう。

 俺がそう言うと、シュマは驚いた顔をした。


「テメェの装備用じゃなかったのか」

「俺はもう必要ないからな」

 武器は獣挽きで十分過ぎるし、防具も今のところ不足は感じていない。ただ、

「大まかな加工は出来るが、防具として纏めるのに必要な細かな技術は俺にはない。関節部分のマージンはどれ位かとか体型にはどの程度合わせれば良いかとかな。シュマには帰ったらそのような知識を持った職人を紹介してほしい」

「⋯⋯そうだな。心当たりがある。そいつにその角が加工できるかは知らねぇが、アドバイスくらいは貰えるだろうよ。取り敢えず帰ったらテミス様に報告だ。エンジュの装備に関してはその後だな」

 シュマはそう言うと、転移装置に角を入れるのを手伝ってくれた。角度を考えて入れなければ収まりきらなかった。帰りは少し窮屈だった。


                   ◇


 村近くの転移装置に到着し、何も問題なく村まで帰って来れた。

 村のちょっとした広場まで来るとシュマが回収部隊の皆に話し始めた。

「回収した肉はいつも通りの手順でテミス様に納めてくれとの事だ。エラー個体の肉は素人の俺から見ても品質が高そうだった。いつもより多めにテミスポイントが貰えると思うぜ。じゃあ、解散。イオドもお疲れ。報告行くぞ」

 シュマがテミスポイントが多めに貰えるかもと言った途端、回収部隊の面々は歓声を上げて喜んでいた。そんなに嬉しいものなのか。


 回収部隊の喜ぶ声を後ろに聞きながらシュマに続いて歩き出す。

「テミスポイントが貰えるのはそんなに嬉しいものなのか?」

 物々交換が出来るのだし、そこまでのものかと疑問してしまう。

「そりゃな。あいつらや俺みてぇに何か作るのが苦手な奴はテミスポイントはありがてぇんだよ」

「何故だ?」

「単純に交換に出せるものの価値があまり高くねぇんだ。俺がゴミみてぇな道具作っても誰も要らねぇだろ? 欲しい遺物や出来の良い作品、例えば治癒促進剤とかな。俺らが手に入れるにはテミスポイントが一番手っ取り早いんだよ」

 なるほどな。シュマがちまちま何か作ってる姿は想像できんな。


「治癒促進剤とか装備は作るのに適性があるというのは理解できるが、遺物は拾い手になって拾ってくれば良いのではないか?」

「テメェは簡単に拾ってくるとでも思ってるんだろうがな、あれにも技術と経験が必要なんだよ。それぞれの拾い手の縄張りもあるみてぇだし、それに俺は衛兵になりたかったからな。それなりに狭き門なんだぜ? 危険手当でテミスポイントが多めに貰えるしな」


 そうなると、ミスが多かったとは言え記録媒体をかなりの数発見しているエンジュは、意外と凄腕だったのかもしれないな。彼女一人で身につけたわけでも無いだろうから、誰か師匠でもいたんだろうか。

 こちらから話しかけなければ大体無言なシュマの横を考えながら歩いていると、以前テミス様と会った建物とは違う建物の前に着いた。

「今度からはここでテミス様はお会いになる。家みてぇなもんだ」

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