第24話 討伐
頭上に放り投げた子羽根が薄い透明な羽根を展開し、俺の斜め後ろに陣取る。こいつを通じてシュマ達が観ているんだな。
「無様は晒せないな」
無論晒す気は微塵もないが。
目前の強化角肉は興奮が頂点に達したのか、エンジン音のような唸り声を上げて俺目掛けて突進してきた。
硬そうな頭に生えた、横に伸びて途中から前方に曲がった巨大な角で俺を突き殺そうと猛然と迫る。
「流石に強化個体と言うだけはある速さだ」
あの巨体でこの速さ。加えて槍のように研ぎ澄まされた赤黒い巨角。
「まずはパワー比べといくか」
俺は左手を前に突き出す。俺の侮りを感じたのか強化角肉の速度がさらに上がる。
走る勢いと巨角を支える強靭な首の筋肉から繰り出されるチャージを、片腕で受け止める。
巨角を掴んで受け止める腕に奔る重い衝撃。巨大な質量の激突に靴底のグリップが一瞬外れ、火花を散らして滑り出す。
「⋯⋯ほぉ、思ったより力はあるじゃないか」
だが俺が脚に力を込め直すと、呆気なく強化角肉の突撃は止まる。
「!!!!?」
己より遥かに小さな存在に、正面から突撃を止められ衝撃を受けた様子の角肉。
「——次は俺の番だな」
こいつを実戦で使うのは初めてだな。どれ程の剣なのか見せて貰おう。先日手に入れたばかりの獣挽きを強化角肉の横っ面に無造作に叩き込む。
「———————っ!!!!」
「⋯⋯ん?」
盛大に周りの残骸を巻き込みながら吹き飛んでいく角肉。だが殴った感覚に何か違和を感じる。
「そういえば、とんでもない硬さだとシュマが言っていたな」
壁に激突した角肉はふらつきながらも損傷もなく立ち上がる。ふらつきは、単純に俺の打撃の衝撃を吸収し切れなかっただけのようだ。奴の金属質な外皮に傷は見られない。
「ふむ」
警戒して隙を窺うように円を描いて、俺の周りを歩き出す角肉。
俺は手近に落ちていた残骸を掴んで角肉に向かって軽く様子見で投げる。
衝撃波を撒き散らしながら角肉に直撃する残骸。
再び吹き飛ばされ壁に衝突する。やはり傷はつかない。
「⋯⋯なるほどな」
投げた残骸が当たる瞬間、角肉の外皮に薄らと揺らめく力場が奔るのが確認できた。最初の打撃も次の投擲も力場に阻まれたようだな。
「なかなか強固な力場のようだが、無限に張れる訳ではないだろう? ——ん?」
何度かブン殴れば破れるだろうと突っ込もうとしたところ、獣挽きが抗議するように触手と眼玉を伸ばしてきた。
「何だ急に。今忙しいのだが⋯⋯これは?」
触手が柄の根元を指し示している。そう言えば、握り込めば刃が回転するのだったな。触手も握って欲しい様子でそっと俺の手に添えてくる。
「わかった。握ればいいんだな」
壊してしまわないよう力を制限して柄を握り込む。
すると不協和音を響かせながら、獣挽きの機獣らしき爪や牙が並んだ刀身が高速で回転し出した。
俺の握る力で回転の速度が変わるようで、柄が軋む寸前まで握り込むとまるで絶叫をあげているような金属音を撒き散らすほどの高速回転に達した。
回転する刀身から眩く火花が飛び散り、まるで焔の大剣のようだ。
「おぉ、そうだったな。お前はこう言う武器だったよな。⋯⋯よし、あまり相手をいたぶるのは良くない。迅速に決めようか」
両脚に力を込めて、全力で跳ぶ。
俺は壁に叩きつけられた衝撃から復帰したばかりの角肉に瞬時に肉薄すると、動けなくするため左前足を狙って袈裟懸けに獣挽きを打ち付ける。
「—————っ!!!!!!!?」
耳障りな不協和音が獣挽きの刀身の回転によって奏でられる。楽器は強化角肉の表面に展開する揺れる力場。
ガリガリと削り取られていく角肉の展開する力場。次第に力場の補充が追いつかなくなり、硝子が割れるように弾け飛ぶ。
強化角肉の身体を守るものはもうない。何の抵抗もなくなった獣挽きを俺は思い切り振り切る。
宙を舞う弾き飛ばされた大木のような角肉の左前足。
「———、———」
無様に俺の眼前で崩れ落ちる巨体。地響きをあげて倒れた首の位置は丁度よく、上段に振り上げた獣挽きを強く握る。焔を噴出する程に回転する刀身で苦しませることのないよう一刀の下に両断する。
巨体から切り離された頭部は鮮血を噴き出しながら転がり、巨角の重さで傾き止まる。俺を見上げる生気の抜け始めた眼は怯えるように震えていた。
◇
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