第23話 出発

 唐突にアームデバイスが振動と共に電子音を鳴らし出す。時間が来たようだ。

 俺は軋む寝台から身体を起こすと、壁に立て掛けた獣挽きを手に取る。

 背中に回すと触手が回り込んで身体にフィットするように収まる。

「⋯⋯行くか」

 今日のエラー個体討伐の結果次第で取れる行動も変わってくるが、何とかなるだろう。


                   ◇


 村に入ったのとは反対の門に辿り着くと、シュマの他に数名の男女が集まっていた。それぞれ大きな背負子や人の身長ほどありそうな幅広の刃物を持っている。

 特に俺に興味を示していない者、怪訝な眼や疑いの眼を向けるものもいる。


「よぉ、早かったじゃねぇか。ついてきな」

「あぁ、ところで彼らは? 一緒に戦うのか?」

 エラー個体の討伐は俺だけでやるものと思っていたんだが。

「いや、こいつらは戦わない。無事テメェが討伐を果たしたら素材を剥ぎ取るんだよ。その剥ぎ取りと運搬要員だ」


 なるほどな。エラー個体とはいえ食用の角肉だ。無駄なくいただく訳か。ただテミス様に指名されてる俺だが、彼らはあまり俺を信用してる風でもなさそうだ。全体的に緊張感がなさそうなのは俺が失敗すると思ってるのかもしれない。

「テミス様にエラー個体の討伐を依頼されたイオドだ。よろしく頼む」

「⋯⋯あぁ」

 一応挨拶をとしてみたが、目も合わさずリーダー角の禿頭の男が適当に返事を返した。


「おら行くぞ。門から出て少ししたら転移装置がある。それで角肉の狩場に跳ぶ」

 解体要員にほぼ無視される俺のことは気にならないのか、シュマはさっさと門を出て歩いていく。

 大勢でぞろぞろ歩くと、門からそう離れてない場所にエンジュと使ったような転移装置が鎮座していた。転移装置の横には角肉の肉を乗せるためか、使い古された大きな台車がいくつか置かれている。

 嗜好品である角肉の狩場への転移装置だから通いやすい場所に置かれているのだろうな。


 全員乗り込み、シュマがデバイスを操作する。

「わかってるとは思うが、装置からはみ出すなよ」

 シュマが俺に注意を促す。もちろんエンジュから実体験を交えて聞かされてるので俺はしっかり乗り込む。


 禿頭のリーダー格が煙をふかし出した。

 あまり好きな匂いじゃない。周りの連中は気にならないようだ。

「すまん、その煙止めて貰えるか」

「⋯⋯はっ」

 俺の要求に鼻で笑って答える禿頭。

 まぁ、少し気になるくらいだったから構わないが。


「⋯⋯なぁ、テメェは何でそこまで自信があるんだ? テミス様もお前が狩る事を疑っちゃいねぇ。角肉に会ったことはないんだろ? 自信の根拠は何なんだよ」

 シュマが一応剥ぎ取り要因に聞こえないようにか小声で聞いてくる。

 自信の根拠ね。

「⋯⋯俺は自分の事に関しての記憶が殆どない。だが戦闘に関しての感覚が頭蓋の奥で燻ってるのを感じるんだ。———俺は強い。確かに根拠はない。それでもわかるんだ」

「そうかよ。———跳ぶぞ」


 俺の答えを聞いて納得したのかしてないのか、デバイスに目線を戻す。

 シュマの一声の後すぐに、一瞬にして転移装置の外の景色が切り替わる。

 先ほどまでの目的もなく建てられたビル群の景色から、透明な太いパイプが壁と天井に幾重にもはしっている巨大な通路に変わる。

 何が流れているのか俺にはわからないが緑や赤などの液体が、すぐ先の大きな扉の先まで吸い込まれていく。


「この扉の先が角肉製造プラントになってる。本来なら造られた個体はケージに入れられたんだろうが、それらは壊れてる。プラントも一基しか残ってねぇから、幸い一体ずつしか製造されねぇ。中にいるのはエラー個体一体のみだ。⋯⋯これを」

 シュマが俺に金属でできた球体を渡す。


「これは何だ?」

「俺たちは中に入らないからな。子羽根だ。俺のアームデバイスに遠隔で映像と音声を送ってくれる。中に入ったらそれを放れ。勝手にお前を捕捉して近くを飛んでる。貴重なものだから壊すなよ」

「了解した」


 確かに扉越しでは俺がどうなったかはわからないだろうしな。扉の防音効果が高いのか、中にいる筈のエラー個体の足音一つ聞こえない。

「準備は?」

「問題ない。いつでも行ける」

 俺は獣挽きの柄を握る。戦闘の雰囲気を感じてか触手が引っ込んでいき、剣の具合を何度か振って確かめる。


「扉を開けたらすぐ入れ。⋯⋯無理はするなよ」

 シュマが開けた扉に飛び込む。背後で閉まる金属音が聞こえる。

 恐ろしく広い部屋。俺が見上げる程の崩れたプラントが何基も並んでいる。


 その中で無事に稼働してる一基の前に、角の生えたやたら筋肉質な四足獣が鎮座していた。見上げるような身体はちょっとした家屋ほどに大きい。筋肉質な身体をテラテラ光る装甲が所々覆っていて、関節がディスク状の機械部品になっている。

 俺は頭上に子羽根を放ると、獣挽きを急に現れた俺にイラついたように興奮する強化角肉に突きつける。

「——さて、俺とエンジュの夢のためにお前には退いてもらう」

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