第22話 お隣さんからも依頼
人が造ったものはいずれ壊れる。この超硬質体で構成された階層都市も、いつか崩れてなくなる時が来るかもしれない。テミス様のようなAIはかつてのテクノロジーの極みにあった時代に人間によって創り出されたと言われている。
そうだな、村人に神のように敬われているが結局彼女はモノでしかないのだな。
確かにプルナの言う通り彼女が壊れないと保証することは誰にも出来ない。
「あたしみたいな考えの人は結構いてね、あたしは料理の方だけど眼紐とか色んな機獣の筋肉を利用して外骨格の動力にできないか研究してる人もいるんだ」
機獣の筋肉を利用か。確かに脆弱な人間が機獣並みの膂力を発揮できるなら危険な階層都市の探索も捗るようになるだろう。
「テミス様が壊れるか、または角肉を生み出す装置が壊れた場合を想定してる村の者は少ないと。対策も練っていない村の現状を君は憂いてるのだな」
「角肉の方はまだ贅沢品だからいいとして、テミス様が壊れたら村は終わりなのよ。ずっと居続けてるからこれからも存在してくれる筈なんて、あたしは信じられない。だからあなたに協力して欲しいの。テミス様に直接依頼されるくらい強いあなたに、眼紐だけじゃなくて色んな機獣やできれば製造プラントを見つけてきて欲しいのよ」
俺はエンジュの望みを叶えなければならない。少ない寿命を何とかするための魂の転写装置と身体を探すという。
だが、村の存続や利便性を模索することはエンジュの望みと相反してはいない。むしろ積極的に協力するべきだと思う。
村がなくなったらエンジュの寿命云々以前にこの厳しい階層都市で生き残ることは絶望的だろう。
「そうだな。俺にも階層都市を探索する理由がある。片手間になるとは思うが、機獣の製造プラントなど意識して探してみよう。道中、何か機獣を狩れたら持って帰る」
積極的に機獣を狩に行くというより、エンジュとの探索のついでに機獣を狩ったり製造プラントを探すで今のところはいいのではないだろうか。
「よかった、ありがとう! 協力して貰えて嬉しいわ。多分そのうち博士からも依頼されることがあるかもしれないわよ」
博士というと、
「機獣の筋肉を研究してる者か。君と知り合いということはその人物も一癖ありそうだな」
正体がバレたら俺を解剖したいとか言い出さないだろうな。
「あたしと知り合いだと一癖ありそうってどういう意味か聞きたいけど、まぁあながち間違ってるとは言えないのが困りものね。⋯⋯悪い人じゃないんだけど、ちょくちょく発明品が暴走したり家が爆発したり異臭がしたりと、似たような理由でご近所さんよ」
そうだろうとは思ったが、俺が想像したまんまの人物像だった。それにしても異臭騒ぎはセットなのか? もしかして機獣の素材は臭いのか? 俺は大丈夫だろうかと少し嗅いでおく。⋯⋯よくわからん。
「ご近所さんならそのうち嫌でも顔を合わせることになるだろうな。⋯⋯では俺は家に帰って明日に備える」
プルナの顔色も十分とは言えないが戻ってきたので、これでお暇させていただく。
「これからよろしくね! 明日は頑張ってね無理しないように。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
おやすみの挨拶を残して俺の家と言っていいのか、家としての体裁は整えましたな家屋に帰る。
ずっと背負っていた獣挽きを壁に立て掛ける。ギョロッと柄から眼玉が出てきて俺を一睨みした後眠るように眼を閉じた。挨拶のつもりなのだろうか?
簡易的な、寝床と辛うじて呼べる台に身体を横たえる。ギシギシと俺の体重に悲鳴をあげる寝台に多少の不安を感じる。正直睡眠が必要なわけではないが、起きててもすることがないから時間が来るまで目を閉じて過ごす。
それにしても、おやすみの挨拶を俺がする日が来るとはな。何となく俺はそんな事を言い合うような生活は送ってなかった気がするんだ。
エンジュの目的以外にも、俺は俺で失った記憶の手がかりを探さないとな。
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