第15話 獣挽き

「ところで、こいつに銘などはあるのか?」

 武器とはいえ生きているようだから、名前くらいは無いのなら付けてやりたい。


「あぁ? そういや名前については何も知らねぇな。置かれてた台座に書いてねぇのか?」

 シュマに言われ、こいつが置かれていた台座をよく調べると汚れて読みにくいが『獣挽き』と殴り書くように削られているのが見えた。


「こいつは獣挽きというらしい。傷も己で修復するようだし、テミス様は随分良い武器をくれたものだ」

 行きで見た武器屋のチェーンブレードより遥かに物々しいフォルム。最初は不気味に思えたが、こうしてみると両断できないものなど無いのではと思わせる迫力に満ちている。


「おう、感謝するといいぜ。一時はどうなるかと思ったが、てめぇわりとやるじゃねぇか。はっきりこいつ死んだなと思ったぜ」

 シュマが俺に初めて見せる笑顔で、肩を小突く。

「あぁ、感謝しよう。これで武器はどうにかなったな。後は何か必要なものなどあるか?」

「おう、ついてこい。諸々、必要なもの見にいくぞ」


                   ◇


 このデカい剣をどう持ち歩くかと考えたが、俺の思考を読んだのか獣挽きから触手が伸びてきて肩に担げるようにしてくれた。

 なかなか主人想いの剣だ。

「はぁー、便利なもんだなぁ」

 その様子を見ていたシュマが少し羨ましそうにしている。


 俺たちは次に討伐に必要なアイテムなどを見繕うため、先ほど素通りした商売区画まで戻ってきていた。

「やはりこういった自律する武器は珍しいのか」

「そりゃな。少なくとも俺はそいつしか知らないし、今日動くのをみるまでは与太話だと思ってたぜ」


 ふむ、この剣がどれ程の性能か早く試したくなってきた。

「ほら、この店で色々買えよ」

 次にシュマが連れてきてくれた店は、薬品の濃い匂いが漂ってくる不思議なアイテム屋だった。

 店内には瓶に入った変な色の液体や、一体どこに生えていたのか名状し難い乾燥した植物が吊るされていたりなかなかに異様な雰囲気の店だ。


「⋯⋯いらっしゃい」

 俺が店内の品物をキョロキョロ見回していると、店の奥からフードを深くかぶった人物が出てきた。

「この店は店主こそ怪しさ満点だが、品質はピカイチだ。値段はちと張るが、治癒促進剤とかは安物は避けたほうがいい。なるべく良いものを買うべきだぜ」

「⋯⋯怪しいは余計だよ」


 見た目が大分怪しいが、シュマがここまで褒めるのだから大した腕前なのだろう。

 深いフードで顔は全くわからないが、意外と若そうな声と薬品除けの白いエプロンを押し上げる身体つきから女性だろう。詳しい年齢まではわからないが。


「店主、こいつはイオド。テミス様に命じられてこれからエラー個体を狩りに行く予定だ。必要なものを見繕ってくれ」

「⋯⋯へぇ、君あれを狩ってくれるのか。アイツのせいで美味い肉にありつけないし、あの場所の近辺でしか取れない素材なんかもあったんだ。そういうことなら安く譲るよ。今後頼みたいこととか出るかもしれないからね。恩を売っておくよ」


 俺がエラー個体を当然のように狩ると思ってるのか、軽い感じで話が進む。無論負けるとは思ってはいないが、この村の狩り手を退けた相手だとわかっているのだろうか。


「店主は俺が失敗するとは思わないのか?」

「ん? あぁ、何となくね。わかるのさ。薬師をしてるとね。生き物の本質が少し汲み取れるようになってくる。君みたいな強者は他とは違う何かが滲み出てるよ。⋯⋯それに君の得物は『獣挽き』だろう。君に懐いてるようだ」

 フードの奥で店主がニヤッと笑うのが雰囲気でわかった。

 懐いてると言われた瞬間、獣挽きの触手が抗議なのかなんなのかキュッと縮こまる。


「店主は獣挽こいつきを知ってるのか」

「まぁね、軽くだけどね。⋯⋯君なら問題ないだろうけど、そいつに舐められないよう気張るんだね」

 イヒヒと怪しすぎる笑いを溢しながら忠告を貰った。俺はその言葉に無論だと頷く。


「⋯⋯他にも行く店があんだよ。とっとと見繕ってやってくれ」

「シュマはせっかちだね。よし、じゃあちょっと失礼して——」

 店主が掌に収まるほどの棒状のものを取り出して、俺の首筋を狙う。殺気もないし避けることもないと判断。

 そして当然のように刺さらず、グニャリと折れ曲がった針を呆然と眺める店主。


「⋯⋯な、何でアダマンチウム製の針が刺さらないんだい⁉︎」

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