第14話 武器は用意してやる

 居残りのエンジュを置いて、俺は寄合い所を後にした。

「おら、てめぇイオドっつったか。手ぶらで討伐に行くわけにはいかねぇだろ。ついてこい」

 という訳で口が悪いながらも面倒見の良いシュマに連れられ、村の装備品などを置いてる区画に来た。


 村の中でも賑わってる場所のようで、楽しそうに村民が談笑したり値切ったりしている白熱した声などで溢れている。

 左右に広がる商店も白い素材の建物で、俺が知らないアイテムや素材など各種取り揃えられていて目移りしてしまう。


「⋯⋯そうだこれ持っとけ。テミス様から渡すよう言われてた仮のアームデバイスだ。機能は制限が掛けられてる。一時的な滞在とは言え、それがなきゃまともに暮らせねぇ。それといくらかテミスポイントも入れて貰ってるはずだ。それで装備なり治癒促進剤やら買うといい」

 シュマが俺に投げて寄越したのは前腕に着けるタイプのデバイスだった。

 腕輪型で、腕を通してみると勝手に俺のサイズにぴったりハマるように伸縮した。


 使い方を移動しながら聞いていると、武器を並べてる店の前に通り掛かった。

 窓から見える店内には槍のような武器や物々しい剣など様々な武器が並んでおり、客が悩みながらそれらを眺めている。


「⋯⋯狩り手といったか。彼らは普段角肉を狩るときはどんな武器を使うんだ?」

「そうだな⋯⋯人によって適性が違うが、初めて狩りに行くとき持たされるのは『電気槍』だな。刺して捻れば電気が流れる。痺れて動けない間にベテランがチェーンブレードで首を落とす」


 俺がシュマの持つ槍に目線を送ると、

「俺は狩り手じゃねぇ。衛兵だから人間相手には槍が一番やりやすいんだよ」

 なるほど、槍だけに。特に目線を送ったことに意味はなかったのだが、新人扱いされたと勘違いしたのか苛立たしげに否定された。


「狩り手じゃないのに俺について行かなければならないのか。大変だな」

「てめぇに言われると腹立つな! 聞いただろう、俺はお目付役だ。戦いには参加しねぇ。狩り手の連中がビビっちまって行きたがらねぇんだから仕方ねぇんだよ。 それに今回てめぇの使う武器はここにはねぇ。ここにあるような武器はエラー個体には通じなかったみたいだからな。とんでもない硬さだったみたいだぜ。来い。てめぇに渡すよう言われた武器はこっちだ」

 そう言われて連れて行かれたのは何年も開けてなさそうな古い倉庫だった。


 シュマが古びた鍵で扉を開けると、黴臭い匂いが漂ってきた。

「おら、入れよ。奥にてめぇに渡すよう言われたブツが置いてあるらしい。昔に拾い手が拾ってきたものと言われてるが、俺はテミス様に言われて連れてきただけで本当に有るのかは知らねぇ」


 雑多なろくに整頓されてない物の合間を縫うように進んでいくと、一番奥にぽっかりと以外何も置かれていない空間があった。

 金属なのか、何かの生物の骨なのか判別のつかない俺の身の丈ほどの剣と言っていいのか悩むものが鎮座していた。刀身は幾つもの牙や爪が付いており、

「⋯⋯でかい両刃のノコギリみたいだな。これを俺に?」


「⋯⋯本当にあったんだな。テミス様が言うにはてめぇなら扱えるだろうとさ。あの方が言うならそうなんだろうさ。———そいつは曰く付きのぶつでな、扱う奴をその剣自体が選ぶんだとよ。扱えれば、それこそ機獣だろうと何だろうと両断するらしいが俺は選ばれたって奴は知らねぇし、実在したことに驚いてるぜ」

 シュマの言うように通常の武器から外れた名状し難い雰囲気を醸し出している。

 見ていると引き込まれるような、扱ってみたい気分になる。


「試してみよう」

 俺は異形の大剣の柄を掴むと掲げるように持ち上げる。

 大きさの割に重さはそこまででもない。重心のバランスもいい。

 振り心地を確かめようと上段に構えると、刀身から触手が飛び出し俺の腕に巻きついてきた。


「お、おい大丈夫かよ! 噂はマジだったのか⋯⋯気をつけろ! 噂が本当なら過去に何人かそいつに殺されてるぞ!」

 シュマが血相を変えて俺に忠告する。

 俺は少し気分を害していた。無論シュマにではない。

 不遜にも俺を試そうとしているらしい、この無機物にだ。


が俺を試そうと言うつもりか?」


 機械混じりの触手を俺に絡ませ、捻り潰そうとする大剣。

 その柄を不快な感覚に任せて思い切り握り込む。

 俺の握力に耐えかねて、ミシミシと素材のわからない柄にヒビが入っていく。

「это больно————‼︎⁉︎」

 金属音のような咆哮を挙げて触手が引っ込んでいく。


「⋯⋯良い子だ」

 触手が引っ込んだのを確認し、思いっきり握り込んでいた手を緩める。

 すると、

「勝手に治っていきやがる⋯⋯」

 俺の握撃によりひび割れた柄が、逆再生のように一人でに治っていく。

 完全に修復が終わると、おずおずと一本だけ触手が出てきて俺の手にそっと触れた。


「———これは、お前の使い方か」

 触手に触れられ、一瞬電気が走ったと思ったら唐突にこいつの使い方が理解できた。

 俺が柄を斬りたいと念じながら握り込むと刃が激しく回転し出す。止まれと念じれば止まる。

「まさかマジで伝承通りだったんだな」

「なかなか使い勝手も良さそうだぞ。気に入った」

 こうして俺は異形の大剣に選ばれたのだった。

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