第13話 欲しければ言うこと聞け

 案内された寄合い所は周りと同じ白い素材で造られた建物だが、周りの家より二回りほど大きく造られていて、中に入ると柔らかい絨毯に円状にクッションが置かれていた。


「何か大勢で話したい事が起きるとここで話し合うのですよ。今日は私が貸し切ってますが」

 上座にテミス様が座り、両隣をミゼーアとシュマが。エンジュは呼ばれた事がないのか、まごまごと下の方に座った。

 俺は適当な場所に腰を下ろす。


「さて、暗月⋯⋯今はイオドと名乗ってるのでしたね。貴方と話したい、というか聞きたい事があります」

 聞きたい事と言われても、覚えてることなんてほとんどないんだがな。むしろ暗月とは何かについて俺が聞きたい。


「あぁ、構わないが話せることなんてほとんどないぞ」

「それで構いません。因みに私に嘘は通じません。沈黙をしても無駄です」

「嘘を吐く理由もない。早く聞いてくれないか」

 俺はただただ村に滞在できる許可が降りるのかそれが気になる。


「いいでしょう。聞きたい事は『私を見て貴方はどう思うか』この一つだけです」

「ん? どう思うかだと? 正直俺にとってテミス様は初対面だ。それ以上でもそれ以下でもない。容姿について聞いているのなら美しいなと思うくらいだ。というかこの質問で村の滞在の可否を決めるのか?」

 いったいこの質問にどんな意味があるんだ?

 俺は何か試されているのだろうか。もっとテミス様の容姿を有る事無い事褒め称えておくべきだっただろうか。


「⋯⋯貴方にとっては下らない質問だったでしょうが、私にとっては極めて大事な質問でした。そしてここまで歩いてくる中で集めた貴方の目の動き、挙動の一つ一つの現す意味を組み合わせると、貴方は本当に全く私のことを覚えていないようですね」

 ほぉ、ここに来るまでの間にも俺の挙動を観察していたのか。確かにやたら喋るなとは思っていたがそんな意図があったとは。


「俺も聞きたいんだが、暗月とは何のことだ?」

 俺の過去に関わることなら何でもいいから知りたい。何かのコードネームのようだが。

「貴方の二つ名のようなものです。由来は⋯⋯秘密です」

テミス様がニコッと誤魔化すように微笑む。


「俺は質問に嘘なく答えたのにか?」

 少し理不尽ではないだろうか。

「私に貴方の疑問に答える義務はありません。権力者ですからね。村への滞在許可いらないんですか?」

 ニコッと無邪気な笑顔を向けてくるテミス様。

 要らないわけはない。エンジュとの約束を守るためには必要になるだろう。なかなかに卑怯。


 一緒に聞いているエンジュもどこか微妙な表情をしている。

 ミゼーアは素敵です。とうっとりとテミス様を見つめている。

「そして、滞在の許可が欲しいのでしたら私の頼みを聞いていただきたいのです」

 この期に及んで頼みだと。絶対に断れないタイミングで!


「⋯⋯頼みとは何だ」

「うふふ、そんな目で見ないでください。貴方にとって難しい依頼ではないはずですよ」

 テミス様が言うには、この村の何層か上に極上の肉が獲れる機獣『角肉』の生成施設があるらしく、そこは村人にとっての精神的支えで『狩り手』と呼ばれるもの達が定期的に狩りに行き肉を流通に乗せていたらしい。


 だが最近になって生成施設にバグでも起きたのか並みの借り手では太刀打ちできない強力な個体が出現したらしく、美味しい肉の供給が滞っているらしい。

 その個体を排除しなければバグを治しに行けないようで、俺に強個体の討伐を頼みたいらしい。


「俺が討伐に行くのは別に構わないが、そこのミゼーアあたりが行けば良かったのではないか? 相当な実力者だろう」

 少なくとも俺が戦うとなれば油断はしない。最初から全力で行く。


「テミス様。こんな怪しい奴に本当に任せるんですか? とても倒せるとは思えませんが」

 シュマが疑念の眼差しで俺を睨む。テミス様にはキチンと話せるんだな。

「問題ないと思いますよ。私を疑うのですか?」

「いえ、とんでもないです!」

 シュマが平身低頭テミス様に詫びを入れているのをにこやかに見ながら、ミゼーアが俺の質問に答える。


「そうしたいのは山々なんだけどね、私はテミス様の側を離れられないのだよ」

 俺の指名にミゼーアは苦笑で応える。

「ミゼーアは私の護衛ですからね⋯⋯ちょっとタイミングが悪くて、本来こういう事態を解決するための役職もいるのですけど別の問題の解決に出かけてましてね。まだ一ヶ月くらい戻らないのですよ」

 そこに丁度よく俺が現れたわけか。


「わかった。断る理由もないし、その個体は排除してくる。ちゃんと滞在許可は出してくれよ」

「あの個体を排除してくだされば許可は出します。それと案内とお目付け役に狩り手の者をと思ったのですが、今回はシュマを連れて行ってください。ちゃんと無事に返してくださいね。———それでは解散です。エンジュは少し残ってください」

 こうして俺は、予期せず討伐任務に赴くことになった。

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