第4話 疑念
俺たちを探し、キョロキョロと複数の眼をあちらこちらに動かす機獣の目の前に、俺の存在を主張する意図でわざと轟音を立てながら着地する。瓦礫が衝撃で飛び散り、砂埃が舞う。
膝立ちの状態から立ち上がり、戸惑うような雰囲気の眼紐を見やる。
俺が近づこうと一歩踏み出す。すると、怯えたように金属と生体の融合した触手を扇型に広げ威嚇してくる。
距離は5メートルほど。あってないような距離。
「言葉が分かるかどうかわからないが、お前が奪ったものを返してくれないか?」
取り敢えず返してくれと訴えてみる。が、触手が勢いよく奔る。頭上に掲げた腕に衝撃。
「⋯⋯まぁ、わからないよな」
思いっきり触手で上から叩かれた。腕を上に挙げてガードする。踏みしめる地面が円形に陥没するが、受け止めた俺の前腕に異常はない。
二度ほど攻撃を喰らったわけだが、やはり俺にとって脅威足り得ない。そんな存在と交戦するのは信条に反するが、エンジュの目的の物は返して貰わなければならない。
「——悪いな」
一息で距離を詰め、機獣の胴体のど真ん中を拳で打ち抜く。本来なら武器か何かを装備していた気もするが覚えていないので素手だ。
「—— это больно!!!」
地面を抉る踏み込みで放った一撃に胴体を重打され、触手をうねらせ悶え苦しむ眼紐に哀れみすら感じるが、まだ戦意は喪失していないらしく触手を槍のように突き込んでくる。
「遅い」
突き込まれる触手を右手で掴み、そのまま相手の力を利用して何度も地面に叩きつける。
巨大な質量が連続して叩きつけられ陥没していく地面。
「———— почему!!?」
己より小っぽけな存在である俺に手玉に取られ悶絶しながら困惑する眼紐。
「⋯⋯物を落とさないかと思ったんだが、まさか飲み込んでるのか?」
記録媒体なるものを取り落としてくれれば、回収して離脱しようと思っていたのだが、どうも持ってるというよりは飲み込んでしまったらしい。
「不本意だが仕方ないな」
俺は度重なる叩きつけにより、ぐったりと動かなくなった眼紐に近寄る。
ぐるっと、嘴のような口を取り囲むように触手が生えている。
「⋯⋯口が此処にあるなら、この辺が胃だろうな」
両手を機獣の胃の辺りにグッと突き刺し、ミチミチと外側に開いていく。
「—————мне это не нравится!!!!?」
身体を無理矢理開かれる機獣が、今までにない絶叫をあげる。だが仕方ない。殺さず済ませたかったが、殺さねば目的が果たせない。運が悪かったと諦めてくれ。
「⋯⋯これが胃かな」
血なのかオイルなのか判別のつかない液体が吹き出してくる。鬱陶しいが拭いながら見つけた胃を開いていく。
様々な残骸や生き物と思しき消化されかかった物を掻き分けて記録媒体を探す。
最早悲鳴を上げることもなくなり、わずかな痙攣と俺が胃の内容物を確認する音が響く。
「⋯⋯お、これかな」
手のひらに収まるくらいの大きさの、ガラスのような質感の球を見つけた。
血やら何やらの汚れに塗れてしまっていたそれを、取り敢えずぶんぶん振るって汚れを落としておく。
痙攣も無くなりこの敵性機獣は放っておけば、このまま死ぬだろう。
目的の記録媒体を入手できたので、エンジュの待ってる場所に戻るかと脚に力を入れようとすると、丁度跳ぼうと思っていた方角にある大きめの残骸からエンジュが顔を覗かせていた。
「あぁ、近くまで来ていたのか。危ないから隠れてもらっていたんだが」
俺がしょうがないなと、苦笑しながら近づこうと一歩踏み出すと、強張った顔のエンジュが一歩後退した。
「ん? どうしたエンジュ。記録媒体なら無事見つけたぞ。機獣が飲み込んでいたようでな、消化でもされていたらどうしようかと思ったぞ」
彼女の何か異質なものを見るような目に、違和を感じつつ損傷もなく回収することの出来た記録媒体を見せる。
「だが見ろ、特に傷もなくこれなら君の目的も———」
「———イオド、貴方はいったい何者なの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます