第3話 取り戻せ


 少し油断をして吹き飛ばされてしまった。

 認識の修正が必要かもしれない。想定より力は強めであると。確かに見覚えのない生物。脅威には感じないまでもその膂力には目を見張るものがある。


「多少、方針は変更してどちらが上かわからせる必要があるかもしれないな」

 俺はさっきまでの対話でどうにかしようとしていた考えを修正し、力を見せる事による服従も視野に入れつつ動こうと、叩きつけられ崩れた瓦礫を払い除けた。


 触手での打撃による損傷は皆無。行動になんら支障はない。

 さて先の獣はどこかと見回すと、少し先の方で白髪の少女が触手に包まれているのが見えた。


 ほう、俺より先に仲良くなれたのかと少し感心しそうになったが、よく見ると少女は苦しそうな表情を浮かべている。

「⋯⋯力加減からわからせる必要があるか」

 あんなに力を込めては相手を壊してしまうではないか。


「⋯⋯仲良く遊ぶのは良い事だが、やり過ぎは感心しないな」


 俺は一息に距離を詰めると嗜めるように機獣を引っ叩いた。

 予想よりも軽い。想定した以上に機獣は踏ん張りが効いていないようで少女諸共吹っ飛んでいく。


 吹っ飛んでいく途中で触手が緩んだのか、白髪の少女が空中で触手からこぼれ落ちる。

「イヤァァァァ!」

 落下予定地点を予測。不安定な瓦礫を足場に跳躍。

 金切り声をあげながら落下する少女を俺は壊さぬようそっと空中でキャッチする。


「すまない、少し力加減を間違えた」

「本当よ!あたしまで吹っ飛んだじゃない⁉︎ って言うか何で生きてるのよ!何なのよあのパワーは!」

 怒ってるかと思えばもの凄い勢いで驚かれた。


「何と言われても、あんなのは戯れたのとそう変わらない。力加減は教えないといけないがな。パワーに関しては俺は第1種戦闘型強化兵だからとしか言えないしそれ以上はわからない。思い出せん」

「第1種?何よそれ。思い出せないって⋯⋯詳しいことは後で聞くとして、とりあえず強いのね?」

 俺の腕の中で一抹の不安を瞳に乗せながら聞いてくる白髪の少女に、俺は安心させるように力強く応えた。

「あぁ、強いぞ」

「ならこの場を何とかして。あなたのアホな行動のせいなんだから」

「それについては済まないと思っている。想像以上に君たちは脆弱なのだな」


 この少女も、少女が恐れる機獣とやらも。俺はあの機獣については恐らく何も知らない。思い出せないという感じではなく初見なのだと直感している。

 本当に人類にとっては脅威の存在なのだろう。ここは流石に少女の意にそうよう動くとしよう。


 着地の衝撃を少女に伝えないようそっと吸収。少女を立たせてやる。

 少女を機獣に見つからなそうな廃墟の一角に先導する。

「君は俺に機獣をどうにかして欲しいようだが、そんなに恐れるなら隠れつつ逃げれば良いのでは?」

 少なくとも奴の索敵は眼の数ほど鋭いわけではないようだし。


「そうしたいのはやまやまなんだけど、私はここで手に入れたいものがあるのよ。でもちょっとトラブっちゃって」

「トラブルとは?」

「目的のものは見つけたのね、それで浮かれて喜んでたら眼紐に見つかっちゃって、目的のものを盗られちゃったのよ」


「眼紐とはあの機獣のことか?」

 個体名なのか種族名かは分からないが現地での呼び名なのだろうな。

「そう。私たちはそう呼んでる。かなり危険な存在なのよ。それなのに気を抜いちゃってね。見つかっちゃったの⋯⋯」

 何ともこの少女らしいと出会ってから間もないのに思ってしまうくらい、らしいミスだ。


「なるほど。という事は取り返すまでは帰りたくないと」

「私だけなら流石に諦めて帰るくらいは出来るんだけど、貴方なら取り返すのも難しくないんじゃない?元はと言えば貴方のアホな行動のせいでこうなってるんだし」

 両の頬をムッと膨らませて抗議してくる少女。確かに俺のミスでこの状況を招いてしまったのは覆しようのない事実。


 対象の脅威度も低い。

 俺は納得した。

「わかった、取り返そう。で、目的の物とは何だ?」

「わぁ!ホントにやってくれるのね!取り返して欲しいのは記録媒体よ。手のひらくらいの丸いヤツ」

「了解した。無力化した後、その記録媒体とやらを回収する」


 眼紐の咆哮が響く方へ跳躍し、跳び出そうと構えると、

「⋯⋯簡単に任せるって言っちゃったけどあいつは私たちにとっては本当に脅威なの。⋯⋯無理はしないでね」

 少女の心から心配する眼差し。

「うむ問題はない、では行ってくる」

「待って、私はエンジュっていうの。貴方は?」


「⋯⋯おれは、そう、俺はイオドだ」

 名を訊かれ、パッと頭に浮かんだ単語。恐らく俺の名前。まだフワフワとした感じが否めないが、この名前でこれから動いていく。

 満足感を覚えながら、俺は跳躍した。


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