第4話 不思議な感覚

 ここは本当に化け物の巣窟だな。


 最初に出くわした犬頭の怪物や、その骸骨にはその後も何度も遭遇した。

 他にも豚頭、いや全身豚なのだが2足歩行の怪物や、なんだかよく分からない泡立ったゼリー状の怪物も襲い掛かって来た。


 戦闘を終えて少しでも移動を再開すると、あっという間に次の怪物の気配を感じるのだから、退屈する暇はない。


 怪物どもは命を失うとすぐに塵になってしまうのだが、犬頭の怪物とその骸骨が剣を残してくれるのが本当に助かるな。

 剣はすぐに使い物にならなくなるので、たびたび入れ替えながら使っている。


 謎の黒い小石も一応拾っているが、ポケットが膨らみ過ぎるのでそろそろ辛くなってきたぞ。


 それから、奴らの持つ盾に対する対策も固まって来た。

 対策の内容は単純で、まず1つ目は奇襲により盾を使わせる前に仕留めること。

 2つ目は、決まって左手に盾を装備している連中の右側から攻撃を加えることだ。


 俺は使い慣れない盾の使用を捨て、剣を両手に2本持って戦うスタイルに変更した。

 右手には順手、左手には逆手で剣を握り、右手の攻撃で盾の反応を釣り出した後に左手の剣で仕留めるパターンが鉄板となりつつある。


 本当は左手に握る方の剣はもっと軽い方が理想的なのだが、まあどちらも大脇差サイズなので扱えないこともない。




「ブギュゥ!」


 右剣のけん制から一気に踏み込んで左剣で胴を薙ぎ、豚の化け物の最後の一匹を仕留めた。

 豚の怪物は急速に色を失い、塵と化していった。


 豚の化け物は3匹で現れたが、例によって奇襲で一気に2匹まで仕留めてしまうので実質1対1みたいなものだ。


 などと戦闘内容を振り返っていたときだった。


「む!?」


 つい声が出てしまった。

 これも油断と言えば油断なのだが、あまりに強い違和感が急に襲ってきたので止められなかった。


 これまでに感じたことのない感覚が身体の奥から湧き上がってくる。

 ついに変調を来たしてしまったか?


 いや、不快な感覚ではない。

 むしろ…、自分がより力強くなったような、身体の芯がよりしなやかになったような。


 もう一つ気になることが目の前にあるが、それよりもまず自分の身体だ。

 剣を振ってみたり、その場で跳躍してみたり、左右に素早くステップしてみる。


 間違いない。

 身体能力が向上している。


 俺は毎日限界まで身体を動かしていたから、間違いようもない。

 明らかにこれまでの人生で今が最高の身体出力だ。


 これはマズいぞ。


 いきなり身体の出力を高められては、技の精度が狂ってしまう。

 負傷や疲労により自身の最高出力から下がる分には対応できるが、急に上がるなんてことは想定していない。


 俺は現在の身体出力に慣れるために、普段の自己鍛錬をなぞってその場で運動を続けることにした。




 小一時間ほど運動を続けただろうか。

 身体の感覚はしっかり馴染んで、もうこれまでに近い動きが出来るだろう。

 

 不思議なことに、先ほどまで次々と現れていた化け物とは遭遇していない。

 まるで俺の準備が出来るのを待ってくれているようで、不気味だ。


 まあ、それはいいか。

 俺にとって都合のいいことに文句を言う必要はない。

 それよりも、目の前にある小一時間ほど保留していたブツを片付けよう。


 宝箱だ。


 いや、宝が入っているのかは知らんが、見た目は完璧に宝箱だ。

 木製の長櫃が金属で縁取り補強されていて、天面がアーチを描いていて、やっぱり完璧に宝箱のイメージを捉えている。


 運動しながらずっと考えていたが、やはり戦闘前にはあんなものは無かった。

 豚の化け物を倒すや否や、急に出現したとしか考えられない。


 無視してもいいのだが、どうにも気になるというか。

 俺は今後この箱を避けて通れないような気がしている。


 不思議な感覚だが、俺をここに誘った何者かがいるのだとしたら、その者の意思なのだろうか?

 ともかく、取り組んでみよう。


 とは言っても、針金一本持っていないので出来ることは限られる。

 外観の違和感、音、臭い、…臭い。


 かすかに感じるニンニク臭。

 こりゃ、ヒ素だな。

 鍵穴から毒針を飛び出させて、開けようとした者に突き刺して毒を送り込む罠だ。


 …いや、ヒ素はいいとしてもなぜ機械的構造まで分かるんだ?

 どういうわけか、鍵穴の向こうにある小さな弩弓の姿まで思い浮かぶぞ。


 そもそも、この宝箱に取り組もうと意識した瞬間からうなじがチリチリする感覚がして、罠の存在を確信していた。

 これまた、俺の知らない何かが俺の身体に起きている。


 これも把握していかないとだな。

 本当にやることだらけだぞ。



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