サイリウムは女神様の為に

第32話 エピローグ

　とりあえず、アパートに戻ってきた。

「はーい、たっだいまー！！　……って、ショーマ？　なんか散らかってない？　この部屋」

「悪かったね。おかげさまで、前よりも少し忙しくなったの！」

「ふうーん……よーっし、じゃあ私がさっそく、お洗濯でもして差し上げましょー！！」

「お、おう」

「ん？　どうしたの？」

　ほえ？　みたいな顔してっけど？　その表情……正直めっちゃ可愛いけど……そう簡単に許される冗談とは思えねえけどな。ったく。

「べ、別になんでもねぇよ……」

「えーー、なんか気になる。もしかして……怒ってる？」

　不安げに見つめられる……その上目遣い……きゃ……きゃわ……じゃねえ！！

「お、怒ってな……くもねぇ……けど、戻ってきてくれたのは……すげぇ嬉しい」

「キャー！！　ショーマったら……キャー！！」

　おい、久しぶりに出たな、それ。

「にしたって、さっきの公園のアレは、さすがに酷いだろ。男の純情もてあそびやがって……」

「私に、とーんでもなく酷いことしたんだから、その仕返しですっ！　あれでも手加減しまくりまくりなんだからっ！！」

　両手人差し指をビシビシッと伸ばして、僕を指差す。

「まくりまくり！？　な、なんだよ、と、とんでもなく酷いことって！」

　どう考えたって、酷いのはそっちだろ！？

「責任！！　取ってくれるって！　言ーーっーーたーーのにーーーーー！！　ふぅふぅ……それに、約束のこと、ずっと勘違いしてるし！！　ショーマのアホーーーッ！！」

　うるうるとした瞳を見せる鶉娘（うずめ）。え？　お、おい、な……泣くなよ！？

「責任！？　勘違い！？」

「ハイって言ったもん……絶対ハイって言ったもん！　責任取るって言ったもん！　責任取るってことだもん！　ショーマ言ったもん！！　ぜーったい婚約成立したもん！！」

「こ、婚約成立！？　婚約って、もしかして、僕とウズメがっ……てことか！？」

「そーに決まってるっしょっ！！　それ以外、誰と誰が婚約するっつーの！？」

「つーのって……お、落ち着けって、僕の言い回しみたいになってるっつーの！」

　って、どゆこと？　うーん、確かに責任取ってって言われた気はする。

　そうそう、あのとき……第４話の中盤くらい……ん？　第４話ってナニ？

　ま、いっか。んで、あーなって……そしたら鶉娘がこーなって、そんでそのあと僕が……「はい」……って。

「言った。言ってるね！　言ってたね！！　でも『はい？』だよ？　第４話読み返してみたけど……『？』付いてたよ？」

「そんなの知らない！　『はい』は、『はい』なの！　それに第４話とか全然わかんないっ！　意味不明だからっ！！」

　たしかに、第４話ってなんだろう。なんか急に降りてきたんだよ、そのワード。

「まて、ってことは、婚約？　勘違い？　あ……」

　僕の中でパズルのピースがカチリとはまった気がする……。ってことは、だよ？　例えばあのときの……あのステージの宣言とかって、僕の為ってこ……と……？

　そ、そうなの？　そうなるよ……え？　マジで？　そんなの照れる……嬉しすぎる。

　そっと鶉娘の様子をうかがう。

　相変わらず両手で僕を指差したまま、鬼の形相だ。不思議とそれすら可愛く見えてしまう。

「でも、なんで？　どうして僕が勘違いしてるって、わかったんだよ？」

「アイツに聞いたの！」

「アイツって、あれか？　ウズメのお兄さんか？」

「そう、アイツとの約束で私が勝ったから、ショーマについて知ってること、全部言わせた！」

　怖っわ……恐っそろし〜。てか、あの男、鶉娘に先越されたの？

「まだ仮免ってことか？　ご愁傷様だな……」

　そんなことを言いながらも、今一度、鶉娘の様子をうかがう。へへっと、小憎たらしい表情を浮かべている。悪い顔してんなぁ……しかし、何故かその表情さえも、不思議と可愛く見えてしまう。こりゃ、さすがに降参だな……うし。

「ウズメ！」

「ふん、なによっ！」

　僕は床に正座をすると、三つ指をついて言い放った。

「ふつつかものですが、なにとぞこちらこそ、よろしくお願い致します！！」

「ふん、まったく……ようやく認めるのね！　では、ショーマ、誓いのアレを！！」

「は？」

「だから、誓いの……ッス……よ」

「え？　なんて？　後半がよく聞こえねぇな……」

「ショーマ！！　それは、私が言うやつなの！！」

「へへっ……」

「んふふ……」

　お互いに笑顔が戻る。

「まぁ、たぶん、色々とクリアしなきゃなんねぇこと、いっぱいあると思うけど……」

「うん」

「いろんな障害も、乗り越えなくちゃいけないかもしれないけど……」

「うんっ！」

「……う～む、そもそも、人と女神様って……その……前例はあるのかな？」

「おばあちゃんは、こっちの人だよ？　おじいちゃんの一目惚れだって！」

「逆パターンか……にしてもあの爺さん？　マジ神だぜ。じゃあ、なんとかなるのかな？」

「なんとかなるなるー！　へいへい！」

「たぶん、僕とウズメは、その……気は合うと思うし……」

「うん、うん、合う！　合う！！」

「とりあえず、そんな感じで少しずつ、始めてみっか？」

「そーしよー！　そーしよー！　始めてみよー！！」

「じゃ……その……誓いのアレ、いくぞ……」

「う……うん……こいこいっ！！」

「キンチョーすんなぁ、やっぱ初めてだしよ」

「わ、私だって初めてだよ、ドッキドキだよ！！」

「目、閉じるのか……これ？」

「ショーマの……お好みで……」

「閉じるか……」

「……うん」

「い、いいか！？」

「い、いいよ！？」

「じゃ、カウントダウン……な？」

「うん……３からね……」

「 「せーの、３……２……１……」 」

　チューーーーッ。

「もう、入ってもよいかのう？　キャベツ持ってきたんじゃが、もうすんだかのう？」

「爺さんっ！？」

「おじいちゃんっ！？」

「「いつからいたの？」」

「最初っからじゃ。えらい待たせおって。まぁ、細かいことはワシに任せるんじゃ。実践経験は強いぞ！　ノウハウはバッチリじゃ！！」

「おじいちゃーん！！」

　爺さんに飛びつく鶉娘。

　爺さん……聞いてたの？　恥ずかしすぎる！！　けど、頼りになる！

「爺さん！　やっぱりマジ、神だぜー！！」

　僕も飛びついて、三人で輪になった。

「元……神じゃがな！　ふぉっふぉっふぉ！！」

「アハハッ！！」

「んふふふっ！！」

サイリウムは女神様の為に

おしまい