第16話 原石
ピィーーッと、ヤカンが
「あの、お茶でいいっすか?」
「はい、あ、いや、その……恐れ入ります」
見た目とは大違いの反応に、こっちが戸惑っちまう。
アパートの前で土下座されたままってワケにもいかなかったので、とりあえず中に入ってもらった。
ステージ裏……スーツ姿で
けれど、男は部屋に入るなり、思い出したようにポケットからサングラスを取り出し、身に
……なるほど、ステージ裏で僕に名刺を渡した男と、
それにしても、僕みたいな
「あ、ありがとうございます! お
「お……にい……さま? …………いえ、どういたしまして……」
佐竹はズズッとお茶をすすると、室内を見渡した。
「あの……ところで、そのー、妹さんの姿がお見えにならないようですが……その、今はお出かけ中……なのでしょうか? お
まあ、そうなるよね……どうしようかな……。
「えっと……ウズメはその、ちょっと事情がありまして、
「え? あぁ、すみません……ええと、ご
佐竹は今一度サングラスを外すと、切実な表情で
「そ……それはなんとも……」
いつ戻ってくるかなんて……正直、こっちが聞きたいくらいだ。遠方かどうかはともかく……いつ戻ってくるかなんて……戻ってくるかさえわからないってのに……。
「あまのうずめ、さんとおっしゃられていましたけれど、三神さんとは、
「ま、まぁ、色々とありまして……」
アイツの家庭の事情なんて、全く知らねぇけどな……。
「三神さん……私……この業界に飛び込みまして、かれこれ十年になります。まぁ、それが長いのか短いのか、私にもわかりませんが、多くのアイドル候補生……アイドルの
ダイニングテーブルに
「
「
遠くを見つめるような目で……静かに、けれど力強く語るその口調から、真剣さがひしひしと伝わってくる。
「あふれ出す才能の輝き……それは、見るものを瞬く間に惑わせてしまう……」
僕は、佐竹の言葉に、知らぬ間に少しずつ引き込まれていた。
「あの瞬間……私は完全に美玖の
あのステージ上で、美玖のダンスを
佐竹は、両手で顔を
「……一度きりでした……もう二度と、あのような衝撃は、味わえないものだと思っていました。しかし、ついに訪れたのです……二度目の衝撃が……」
そう言って佐竹は顔を上げると、僕を真っ直ぐに見つめる。
「お兄様! うずめさんは本物です……
佐竹は
「お兄様!! お願いします。うずめさんを
こんな若僧に、一度ならず二度までも……プライドも何もかもかなぐり捨てて、そこまでして鶉娘をスカウトしたいというのか……?
美玖を超える逸材……正直、アイドルの
「佐竹さん……佐竹さんのお気持ちは分かりました。ただ、これはウズメの問題です。僕がどうこうできる問題ではありません。ウズメ本人の気持ちを確かめるまでは、保留とさせてください。お願いします」
「も、もちろんです。お兄様、よろしくお願いします」
今一度
「ただ、ウズメの、その……あのステージ上でウズメが言った言葉は、問題にならないのですか?」
「……と、
佐竹は、優しい顔を僕に見せる。
「その……ウズメが言った、『
「ハハッ……あ、失礼しました。ええ、それに関しては問題ありません。と言いますか、むしろキャラクターとでも
ニカッと笑いながら、お任せくださいとばかりに、胸に手をあてる。
なるほど、さすがに大手芸能プロダクションともなると、色々な場面や発言に対するノウハウみたいなものが、あるってことなのか。
「そうですか。いずれにしても、ウズメの気持ち最優先でお願いしたいと思いますので、ウズメ本人の気持ちがわかるまでは、しばらくお
「もちろんでございます!!」
ひと通りの話を終えると、
……アイツが聞いたら、
でも、だったらなんであんな宣言、わざわざしたんだろう……する必要ないよな?
あの時、鶉娘は自分の口から、
ステージ上の鶉娘は、本当に輝いていたし、鶉娘本人だって……とても楽しかったに違いない。
それなのに、その可能性を、
まぁ、女神様に、僕たち人間の感性を当てはめるのも、無理があるってもんかもしれねえけど……。
ただ、それを
鶉娘にとって、そんなにも大切な存在ってことなのか……その『約束』ってのは。
……鶉娘の気持ちを最優先に。そうだよ、それが一番……大切なんだ。鶉娘の気持ちを確かめるまでは、僕にはどうすることもできない。
確かめようにも、もう二度と確認することさえ、できねぇかもしんねぇけどな……。
佐竹が飲み終えた
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