第14話 決意
ガタンゴトンと、帰りの電車に
隣に座る
まあ、あれだけ色々なことがあったのだから、眠くなるのも当然か……結局、結果発表では
けれど、会場は微妙な空気に包まれていた。優勝の座を獲得した本人の口から、まさかの宣言がなされたのだ。当然といえば当然か……。
イベント終了後、僕は「兄」を装ってステージ裏へ向かったのだが、
スタッフによる
スタッフの
レンタルした衣装は、スタッフが返却してくれるということになり、僕と鶉娘はコソコソと観衆に気づかれないように、逃げるように会場を後にした……というわけだ。
電車に揺られながら、まどろみに包まれる鶉娘を横に、僕はポケットからそっと名刺を取り出す。
『芸能プロダクション-Luminous-』
この名称には、見覚えがある。それもそのはず、
ファンクラブに入っていたりするわけではない。けれど、大手芸能事務所ということもあり、世間一般にも、その名は知れ渡っている。
『芸能部 アイドル課
その下には、Luminousのホームページアドレスに加え、携帯番号とメールアドレスも記載されている。
「いつでも、連絡してきてください。楽しみにしていますよ……」
そう告げる
正直、一番苦手なタイプ……というか、そもそもあんな
けれど、大手芸能事務所に勤める人間から見ても、鶉娘のあのパフォーマンスは、目を見張るものがあったという事だろう。
実際、僕もあの時の鶉娘には、完全に
いったい、いつの間にあんなパフォーマンスを身に付けたのだろう……あの
僕は、隣でうたた寝をする鶉娘に、そっと視線を送る。
……女神様……か。
この小さな体に、いったいどんなチカラが
いや……それよりも……そんなことよりも…………。
あの言葉……あれが本当であるならば……鶉娘が宣言したあの言葉が真実であるならば……。
僕は、これからどうするべきなのか……どうしなければならないのか……真剣に考えなければならない。
……いや……考える必要なんて無いのかもしれない……。
突然、目の前に現れた、謎の少女……彼女は、自分自身を、「女神様」だと言っている……にわかには、信じられない。
けれど、いくつかの不思議な現象は、幻ではないと思う。これも、何かの運命なのだろうか……?
これは、恐らく冗談などでは無いのだ……そんな気がするし、そんな核心もある。
隣同士、付かず離れずの距離感で電車に揺られる、頼りない男とあどけない黒髪の少女。
僕は、真剣な眼差しで、小さな決意を胸に、窓に映るその二人を見つめ続けていた。
ふわぁと、
「ねぇショーマ、お買い物していこうよ」
「買い物? ……ってそうだったな、まだ必要なモノ、あったな……」
電車を降りた僕と鶉娘は、駅近くの商店街に立ち寄り、買えなかった生活必需品を
「んふ。カワイイの買っちゃった。んーと、必要なのは、だいたいこんなところかなぁ……? あとは、お
「まぁ、そうだな……」
色々あって疲れたし、どこかで外食にでもしようと思うけど、今日はそれなりに出費もあった……予算的に厳しいというのが本音なんだよなぁ。
下着店で支払いを済ませた時点で、1,000円札一枚しか残っていない……
「ウズメ……その、晩飯なんだけど……」
「ねぇショーマ、晩御飯、私が作ってあげようか……?」
「え?」
買い物袋を後ろ手に持ったまま、タタッと僕の前へ回り込むと、
「あーっ! その顔は疑ってるなー!?」
にこーっと後ろ向きに歩きながら、僕を指差してそう告げてくる。
その場でクルリと一回転すると、両手をばっと広げて僕の行く手を
買い物袋を持ったまま、ドンと胸を叩くように
「食べるだけじゃなくて、作るのも好きなんだから! ショーマの胃袋なんて、簡単に
「……あ、……ああ」
商店街の外れ、やや薄暗い街灯をスポットライトのように浴びながら、笑顔を見せる鶉娘。
「……ずっと笑顔だな……」
「ん?」
笑顔のまま、小首を
「……あ、いや、ウズメは……ずっと楽しそうにしてるなって、思ったからさ……」
「うん、楽しいよ! 今日もショーマと一緒にお出かけできて、ホント良かったよー……まぁ……まさかあんなステージに立つとは、思ってなかったけどね! えへっ」
片方のほっぺを、ポリポリと
……あぁ……何だろう……たぶんこれは…………けど……。
「…………寂しいとか……思ったり……しねぇのか……?」
「全然っ!」
あまりにも、あっけらかんとした返事が返ってきた。正直、面食らってしまう。
「い、いや……ほら、だって……天界? ……に帰りたいとか、そういうの……あるんじぇねえのか……と……思ってな……。その……会いたい人とか……」
僕は再び歩きながら、そう鶉娘に問いかける。
「うーん、そぅねぇ……まぁ、無くはないっていうか……でも、たぶん、
タタッと駆け寄るように僕の隣に並ぶと、帰り道をまた一緒に歩き始める。
「……当分……帰れない……のか?」
「うん……たぶん……」
「……当分って……どの……くらい……?」
「んー、わかんない。
……何となく、今な気がする。どこかのタイミングで聞こうとは思っていたけど、聞けずじまいだったこの問いかけ……けど、なんとなく聞きたくないという気持ちが、知らないうちに少しずつ、大きくなっている気がする。これ以上、大きくならないうちに……っていうか、これ以上大きくしないうちに……。
これ以上大きくなってしまったら……たぶん、聞けなくなってしまう……。
「……な、なぁ……ウズメは……その……どうしてこっちの世界に来たんだ?」
鶉娘から顔を
「……ん〜……聞きたい?」
鶉娘にしては、小さな声で返事をしてくる。
「……あー、うん……聞きたい……かな……」
「……うん……なんか、そんな
ネガティブな打ち明けにしては、明るい声だ。
「落ちこぼれ?」
「うん。堕ちこぼれね。私、神様とか女神様とか、全部でどれくらいいるのか知らないけど、その中で、私は日本の神様……女神様なの……あ、正確に言うと、女神様見習い? なのかな?」
「見習い? ……そういや、高二って言ってたからまだ学生だよな……」
「うん。あっちの高校は、成績とかそんな重要じゃなくて、日本の神様は
「あー、うん……なんか、聞いたことある気がする」
「まわりはみんな、そういう特別をとっくに見つけて……うん、普通は中学のうちに見つけて、高校はそれを伸ばす場所なんだけど……私は全然見つかんなくて……でも、あせってもしょうがないし……そしたら、さすがに問題になっちゃって、呼び出されちゃった!」
舌を出しながら、握りこぶしで頭をコツンとするような仕草を見せる。鶉娘はそのまま話を続けた。
「両親とか、先生とか集まって、色々協議したみたいなの。それで……一度
鶉娘は何かを思い出したように、僕をジロリと
「……え? え? な、何にもしてないよ!? マジでこっちがビックリなんだから……部屋の中、全然違うんだもん」
「んふ、んふふふっ……でも、良かった! ショーマで良かった! ……それに……それに……とんでもない約束まで……決まっちゃうし……キャー!!」
鶉娘は、なにかブツブツと言いながら突然走り出したかと思うと、遠くの方でクルクル回りながら謎のダンスを踊っている。
……ウ、ウズメ……? なにやってんだアイツ……。
まぁ、
ただ、天界に戻る手段というか、こっちの世界で何をすれば戻れるのか、それは分からない……話の流れからすれば、鶉娘が特別な何かを見つけられれば……おそらくそのきっかけくらいでも
そんな考えを巡らせながら、踊り続ける鶉娘のもとへ歩み寄る。
「よし、協力すっからさ、ウズメの特別を、一緒に見つけようぜ!」
「ショ、ショーマ!! うんっ!」
そう言って、鶉娘はものすごい勢いで僕に向かって走り出す。
……お、おいおい、おいおいおい、ちょ、ちょちょ、ちょっとーー!
両手を大きく広げて、真正面からジャンプするように僕に向かって飛びついてくる……。
僕はそれを、ぎこちない姿勢で必死に受け止めようとする……なんてったって、こんなシチュエーション、僕の人生の想定外だから……。
……フワッっと前方から凄い勢いで風に吹かれる。下着や生活用品を入れた買い物袋が、僕のすぐ隣をすり抜けていく。僕の後ろから、袋の中身が道路に散乱する音が聞こえてくる。
そっと目を開くと、僕はその場に一人、
…………え?
ゆっくりと後ろを振り返ると、買ったばかりの下着や、未開封のピンク色の歯ブラシが、道路に散乱している。
僕は走り出していた。
……ウソ……だろ? …………え?
ピンク色の歯ブラシをギュッと
……なん……だ……これ……冗談はよせって……。
……かくれんぼ? いい
……魔法か? ……チカラ使ったのか? 今は、お休み中だって……言ってたじゃねぇか……。
なんの変哲もない、ただの日常が……戻ってきた。普段と何も変わらない、平凡な日常が帰ってきた……ただ、それだけだ。
……突如として必要の無くなってしまった生活必需品。
僕はそれらを、ギュッと強く
女神様見習いは、
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