第13話 初舞台2

 晴天せいてん霹靂へきれきとはこのことか!?


 僕の体に、百万ボルトの電撃でんげき避雷ひらいする。ビッカーンと、まばゆ閃光せんこうが直撃する。脳天から煙ががっている……にちがいない。


「うぉーーーっ!!」

 特設ステージにけた観衆が、美玖みくいもうと候補たちに歓声をあげる。


 ステージ上の女の子たちも、まんざらでもないといった表情で、観衆の声援せいえんに応えている。両手を大きく振ったり、投げキッスを送ったり。


 ど、どーーーーなってんの!? なにやってんの!? なんでアイツがステージ上に立ってんの!?


 呆気あっけに取られたまま、呆然ぼうぜんとステージの様子をながめていると、ステージ上の鶉娘と目が合った。

 ぱぁっと明るい笑顔を見せると、一生懸命に手を振って、僕にアピールしているように見える。


 や、やめてくれ……勘弁してくれ……もう理解がいつかない……完全にいてけぼりをくらっている。


「おい、あの子、今、オレに手を振ったぜ!」

「バーカ、俺だよ! 何、勘違かんちがいしてんだよ! お前なんかに手を振るワケねぇだろ!」


 みっともな言いいあらそいが、前方から聞こえてくる。


射干玉ぬばたま黒髪くろかみ……うるわしき乙女おとめよ……先程から視線が突き刺さるではないか。そんなにボクから目を離せないのかい? ……フフッ、困ったおじょうさんだ……」


 な、なんか、変なひともいるなぁ……。

 ……でも、気持ちは分からなくもない。実際、美玖みくの応援をしている時は、似たようなコト、考えてるもんな……。


 けど、アレは間違いなく、僕に向けて手を振っている……と、思う。なんか、ゴメンよ……目の前の同志達よ……。


「うずめちゃんて言ったっけ!? いいじゃん、オレ、断然あの、応援しちゃう!!」

「あまのうずめ氏……かわゆす……十七歳……女神様やってますっ、と……メモメモ……」

 グルグル眼鏡にバンダナを巻いた、いわゆるホンモノと思わしきお兄さんが、ブツブツ言いながら手帳にメモを書き込んでいる。


 ……あれ? ……鶉娘? もしかして……アイツ結構、人気あるのかなぁ……。



 そこからは、ひたすらに唖然あぜんとしながら、そのステージを見守るしかなかった。

 アピールタイムとして、歌を歌ったり、特技が披露ひろうされたり……。


 そして、いよいよ鶉娘の出番が回ってきた……鶉娘のアピールタイムが始まろうとしている。

 なんか、めちゃめちゃ緊張してきた……鶉娘のヤツ、大丈夫なのか!? なーんも準備してないと思うんだけど……。


『では、最後に天野鶉娘あまのうずめさん、今日は飛び入りですけど、何か披露ひろうしていただけますか?』


「はーい……私、美玖さんのこと知って、もないんですけど、美玖さんみたいになりたいなーって思って、それで、美玖さんと同じ衣装、てみました。どうですかー!?」


 鶉娘がステージ上で、クルリと一回転してみせる。フリフリのスカートがふわりとれて、本物のアイドルみたいだ……。


「かわいいぞー!!」「うずめちゃーん、似合ってるよ!!」「サイコー!!」

「うわー! ありがとー!! えへへっ! じゃあ、あの……新曲PVの映像えいぞうって流せますか?」


『え? PVですか? ……ちょっと、ってくださいね!』

 ごにょごにょと、司会のお姉さんがマイクをはずして、スタッフと話をしている。

『ん? OK? …………はいっ……え? はい。……鶉娘うずめさん? どうやら、OKみたいですよ!!』


「やった! じゃあ、お願いします!!」


 鶉娘はゆっくりとステージの中央に移動すると、手のひらで横顔よこがおかくすようなポーズをとる。新曲PVのオープニングと同じ構図こうずだ……。


 爆音とともに、新曲『純情じゅんじょう-Cherry Blossom-』のPVがモニターに映し出される。ワイプとなった美玖も、曲に合わせて踊り始める。


 ……圧巻だった。


 映像と鶉娘のダンスが完全にシンクロしている……。


 完璧といっていいのこなし。


 頭のてっぺんからつま先まで、寸分すんぶんたがわぬその動きに……魅了される。


 十七歳。まだまだ幼さの残る鶉娘うずめからは、想像もできない妖艶ようえんな動き。


 PVの美玖を彷彿ほうふつとさせる、大人の魅力。


 僕は……吸い込まれるように見惚みとれていた。


 あっという間の出来事だった。曲が終わると、あたり一面が静寂せいじゃくに包まれる。


 あまりに呆気にとられた観衆かんしゅうは、声援を送ることさえ忘れてしまっていたようだ。


 …………パチ……パチパチ、パチパチパチと、ところどころから小さな拍手が聞こえてくる。次第にザワザワと、戸惑いに近いざわめきが、ステージを包み込む。


「……ウ、ウズメ? ……おまえ……これ……?」


「うずめちゃんサイコー!!」「な、なんだこれ、スゲーよ!!」「うずめ氏、おそろす」

 うおーーー!! という大歓声が、一足ひとあし遅く訪れる。正気しょうきを取り戻した観衆が、思い出したように歓声を上げる。


 少しだけ肩でいきをしながら、両手を振って歓声にこたえる鶉娘。集まってくれた観衆すべてに感謝の気持ちを伝えるように、深々とお辞儀じぎをする。


「みなさん!! ありがとうございましたっ!!」


 鶉娘の、心からの叫びが、会場を包み込む。


『……あ……あ、ありがとうございました……天野鶉娘あまのうずめさん……でした……』


 ただひたすらに、信じられない光景が、目の前で巻き起こっていた……。




『それでは、「美玖みく妹選手権いもうとせんしゅけん!」優勝者の発表を行いたいと思います。っとその前に、美玖さんに感想を聞いてみましょう。美玖さーん、いかがでしたかー?』


『はーい。皆さん、本当にレベルが高くて……うたおどりも、最高でした。私もとーっても楽しかったです。優勝者の発表、私も楽しみにしていまーす!!』


『はい! ありがとうございます。いやー、美玖さんも楽しみということですけど、会場の皆さんも、楽しみですよねー!!』


 集まった観衆から、妹候補こうほ四名それぞれに、声援が送られる。鶉娘もステージ上にならんで、結果発表を待っている。


『では、発表いたします。えある、美玖の妹選手権! 優勝は……』


 ドロドロドロドロ……っと、ドラムロールの音とともに、スポットライトが候補者四名をグルグルと照らし出す。

 ドロドロドロドロドロドロ……ジャン!!


『優勝は…………天野……』

「……あのっ!!」


 鶉娘がバッと手を挙げて、一歩前へ踏み出した。


 会場全体が、ときが止まったかのように、静寂せいじゃくに包まれる。結果発表の進行が、一時的に停止した。

 何事なにごとだろうと、会場が次第しだいにザワザワとざわつき始める。


 司会のおねえさんも、戸惑とまどいをかくしきれずに、鶉娘の様子をうかがっている。


 鶉娘はステージの中央にゆっくりとあゆると、マイクを両手でしっかりとにぎって、静かに語り始めた。


「あの……皆さん、今日は飛び入りで参加させていただいて……こんな素敵なステージに立たせていただいて、本当に、ありがとうございました……」


「うずめちゃーん、どうしたー」「だいじょうぶだよーうずめちゃーん」「うずめー、がんばれー」


 ところどころから、鶉娘を心配するような歓声が聞こえてくる。


 鶉娘は、そんな観衆かんしゅうに向かって、小さく手を振ると、はにかむように笑顔を見せる。


「……ありがとう……本当に楽しかったです。本当にありがとうございます……」

 深々とお辞儀じぎをする鶉娘。


「……でも、私……本当は、このステージに立つ資格……いと思います……」


「どうしてー?」「そんなことないよー!」「うずめー最高だよー!!」


 観衆から、より一層いっそう心配する声が、いくつもき上がってくる。


 鶉娘は、そっと目を閉じると、くっとけっしたように目を開いて真っ直ぐ前を見つめる。


「……あの……わたし! ……婚約者こんやくしゃがいるんですっ!! 結婚の約束をした人が……いるんですっ!!」











 ………………………………は?




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