第12話 初舞台

 ガヤガヤと、人通りのする音が、かすかに聞こえてくる。


 ガクンと頭がれ下がり、アブねっと思った瞬間、目が覚めた。


 ……あれ? いつの間にか眠っちまったんだな。えっとここは? ……そうか、鶉娘うずめと一緒に秋葉原に来ていたんだっけ。


 公園のベンチに座ったまま、うーんとびをすると、ふわぁーと欠伸あくびがでた。


 ん? なんだあれ? 公園の片隅かたすみひとだかりができている。そういや、何かイベントの準備みたいなことやってたな……。


 にしても鶉娘うずめのやつ、まだ衣装を選んでるってのか? ずいぶん迷ってるみたいだなぁ。ちょっと様子を見に行ってみるか。

 よっこらしょと。ベンチから立ち上がると、ショップの二階へがった。


「……ウズメ? もう衣装は決まったのかな……?」


 店内に入ると、『綾波』の姿が見える。ちょうどいいや、聞いてみよう。


「あの……ウズメ……えっと、一緒に来たなんですけど、もう衣装、決まりましたか……?」

「あ、あら、あなたは先ほどの……先ほどは大変失礼いたしました」

「いや、全然! 全然気にしてないので大丈夫です! ……それよりその……」

「おれ様ですよね……ずいぶん前にレンタル衣装に着替えて、出て行かれましたけど……」


 ……え、そうなの? ベンチで眠りこけている間に、すれ違いになっちまったってことなのか?

 鶉娘うずめのやつ、どこ行っちまったのかな?


「もう随分ずいぶんちますけど……かれこれ二十分くらい前になりますかね……」


 ……え? そんなに経つの!? そういや、あいつ携帯スマホとか持ってねぇんだよな。はぐれちまったのか……こりゃ見つけるの大変だぞ……。


「……と、とりあえず、探してみます。ありがとうございました」


 そんなに遠くに行ったとも思えないし、公園の周辺しゅうへんから探してみるか……。

 綾波に向かって軽く会釈えしゃくをすると、せまい階段を一気に駆け降りる。


 目の前の公園を見渡すと……そこには、異様いような光景が広がっていた。


 ……な、なんだこりゃ!?


 いつのまにやら、めちゃめちゃ大勢の人たちが、この小さな公園に集まっている。


『みーなさーーん、こーーんにーーちはーーーーー!!』


 どわっ!! 巨大なスピーカーから発せられた爆音に、衝撃を受ける。


「な、何事なにごとだ!?」


『今日は、お集まりいただきましてー、誠にありがとうございまーす!』


 さっきのデカいトラックが、特設ステージみたいになってやがる。


桜庭さくらば美玖みく、新曲PV公開記念特別企画こうかいきねんとくべつきかく! 美玖みくいもうとは私に決まり!! 美玖みく妹選手権いもうとせんしゅけん!!』

 ステージ上の大きなモニターに、「美玖の妹選手権!!」という文字がうつし出される。


 な、なんじゃこりゃぁ!? ……美玖みくの妹だって!?


『では、リモートで繋がっている美玖さんに、さっそく登場して頂きましょう! どうぞ~』

『ハーイ! 桜庭さくらば美玖みくでーす。今日は、私にカワイイ妹が誕生するということで、とーっても楽しみにしていまーす!!」


 カメラに向かって、両手を振る美玖みく……か、カワイイなぁ……。


 ステージの近くに押し寄せた、美玖みくファンと思われる集団が、「うおーー!!」と、地鳴りのような歓声を上げている。

 っと、それどころじゃない。こんなに大勢おおぜいひとがいたんじゃ、そう簡単に鶉娘を見つけられそうもないぞ……。


美玖みくさ〜ん、ありがとうございまーす。ということで、美玖さんが見守る中、いったい誰が、「美玖の妹」にえらばれるのでしょーか!? とーっても楽しみですね~!!』


 鶉娘も、あの人混ひとごみの中にいるのか? とりあえず、あのステージの近くに行ってみるしかねぇか?


『それでは、さっそく始めていきましょー。事前じぜん応募おうぼ頂いた候補者の中から、書類しょるい審査しんさを通過した三名が、ステージ裏でスタンバイしております。そして、今日は特別にもう一名、ここ秋葉原で、私たちスタッフがスカウトした女の子もいるんですよー!!』


「おーっ!!」という歓声が響き渡る。


 僕は、ステージをかこむ集団の後ろから、背伸せのびをするように鶉娘を探す。

 こ、これは……男ばっかじゃねーか!! むさくるしいにもほどがある。この中に鶉娘がいるとは到底とうてい思えない……しかもアイツ小柄こがらだしなぁ……もし……いたとしても、これじゃ絶対に見つけられねぇぞ……。


『と、いうわけで、四名の妹候補こうほの女の子達に、登場してもらいましょう!! ステージ上へどうぞ~~!!』


 美玖みくのデビュー曲『サクラ色に染めて-In My Heart-』が流れると、女の子たちがステージ上にあらわれる。

 ステージ下からは、「イン・マイ・ハー、イーン・マイ・ハー」の大合唱。モニターの向こうにいる美玖も、リズムをきざむように体をゆらして、ノリノリだ!


 ステージ上に登場した、十代後半の女の子たちに目を向ける……最後に登場した女の子を見た瞬間、脳天のうてんをブチかれたような衝撃に見舞われた。


 ……な……な……え? ……うそうそ……いやいやいやいや、無い無い。


 この世には、自分とそっくりな人間が、三人存在するんだっけ? なんかそんな話聞いたことあるよ。


 つまり、あれは……あそこにいるのは、そっくりさん……というワケで、早く鶉娘うずめさがさなきゃ……鶉娘やーい、ど〜こで〜すか〜? いいとしして、かくれんぼかなぁ〜?


 うーずぅ〜めさぁ〜ん。かぁーくれぇーてい〜ないーで、でぇーておーいでぇ~~。でぇーないーと、めぇーだまぁーを、ほぉーじくぅーるぞぉ~~。


 そんな思いをめぐらしつつも、背中せなかに嫌〜な汗がジワジワとがってくる。タラタラと、ダラダラと、ひたいからも汗がしたたちる。


 わるゆめだ。悪夢あくむだ。こんどこそ夢に違いない。そう、さっき居眠いねむりしたまま、まだ目覚めてないんだ。そうだそうだ……そうに違いない。


 ステージ上の女の子たちが、順番に自己紹介を進めていく。四番目の女の子の番が回ってきた。


 新曲PVで美玖みくけていた衣装……まるで、そのミニチュアバージョンと言わんばかりにそっくりなよそおいの、黒髪ロングな女の子に、マイクが渡る。


 あー、怖い怖い……やだなー……寒気さむけがする……風邪かぜひいたかな? 地球寒冷化かんれいかかな? なんか怖い……怖いよ〜!


天野あまの鶉娘うずめ、十七歳でーす。女神様やってまーす! みなさーん、よろしくお願いしまーす!!」

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