第9話 魔法
土曜の夕方から日曜深夜までの
アパートに帰り着いたのはその
「……ただいま……」
ささやくように帰宅を
明かりは
ふぅ……。
ふすまを閉じてダイニングの明かりを点けると、
僕がバイトに行ってる間に、
はぁ〜、色々あって疲れた〜。今日は
できるだけ音を立てないように注意しながら、風呂を沸かす。
洗濯物の中から、着替えとバスタオルを手に取る。いつもよりいい
そっとバスタオルに顔をうずめると、スーッと大きく
この感じ、何年ぶりだろう……。
上京して以来、初めて味わう感覚かもしれない。
僕は、しばらくの間、じっとそのままの
……さてと、風呂に入るか……。
チラリと和室へ視線を送る。ふすま一枚
風呂を出ると、洗い立ての部屋着に
そっとおでこを
あーなんか、目まぐるしい一日だったな……。ビールを飲みつつ、今日一日を振り返る。
そういや
それに、どうして僕の前に現れたんだろう。なにか、手違いがあって、こっちの世界に
夕方、お弁当を食べながら鶉娘に色々と聞こうと思っていたんだけど、なんとなくそんな空気じゃない気がして、結局聞けずじまいのままだ。
ビールを飲み終え、空き缶をテーブルに置くと、もう一度ふすまを開けて、鶉娘の様子をうかがった。
スースーと
そーっと寝室に入ると、
こうやって静かにしていれば、まぁ……
「うぅ~ん」
おいおい、
まぁ、この部屋エアコンねぇしな。
「…………」
そっとタオルケットを手に取り、
油断してると、
……たしか、もう一枚あったな?
ぐるりとミノムシのように
これからなんて……考えても仕方ないや。なるようにしか、ならんだろ……。
そう自分に言い聞かせた。
おやすみなさい……。
ブイーーーーン!
……ん? ……なんだ、
「ショーマ、
朝っぱらから掃除機をかける
「うお、おい、いててて。な、なにすんだよ、昨日遅かったんだから、もう少し寝かせてくれよ……」
「何言ってるの、もう
「じゅ、十時過ぎ? ……もうそんな時間か……」
ゴロゴロと寝転がったまま和室へ
「ねえ、ショーマ。これ見て、これ」
そう言って、スマホの画面を僕に見せてくる。
「ん? ……アナタも……アイドルになれる? ……コスプレ? ……カフェ?」
「ね、ちょっと面白そうじゃない? 私、ここ、行ってみたい!」
「アイドル? ……って、おい、
……え? ……お、おいっ!?
僕の人差し指をスマホに押し付けた。
「はい、解除。簡単でしょ?」
な、なるほど。いよいよ魔法を使って
「……なあウズメ? ウズメはその……、女神様なんだろ?」
「そうよ……それがどうかしたの?」
「なら、なんかこう、魔法みたいな、不思議なチカラって使えたりするのか?」
「もちろん!!」
「ほ、ほんとか? それじゃあ、ちょっとだけでいいから、なんか見せてくれないかな?」
「うーん、でも、今、ちょっとお休み中なのよね……」
モジモジと、人差し指
「お休み?」
魔法にお休みとかあるの?
「そう、ちょっとね……調子悪いっていうか、その……とにかく、今はお休み中なの。だから、また今度ね」
ま、まあ、
「そっか、それじゃ、仕方ないな。また調子がいい時に見せてくれよ?」
「うん! わかった……でぇ、それはそれとして、コレなんだけどー、ねぇ、行こうよ……」
そう言って、おねだりをするように、もう一度スマホの画面を僕に見せてくる。
「まぁ……そうだな……今日はバイトも無いし、出かけてみるか?」
「やったー! ありがと、ショーマ!」
鶉娘はピョンっと飛び上がってバンザイをすると、
「さっそく準備だね! 着替えないと!」
そう言って、僕が買ってきた洋服の入った
「そ、その、女の子の服なんて、買ったことないし……どーゆーのが好きか、全然わかんなかったから……」
鶉娘は袋の中から洋服を取り出すと、両手でパッと広げるようにして、僕に見せびらかしてきた。
そのままその服をギューッと抱きしめると、
「ショーマ……ありがとう……」
顔をうずめたまま、その場にペタンと座り込んだ。
「お、おう……気に入ってくれたのか? ……それならいいんだけど……」
な……なんだ? ……この感じ……やべえ、なんか……わっかんねえけど……。
そんな仕草を見せる鶉娘を、僕は無意識のうちに見つめていた……ら、着ていたTシャツの
「お、おい、ちょ、ちょっと待てって!」
「……ん? ……どうかしたの?」
ポカンと口を開いたまま、小首を
「ど、どーしたの? ……じゃねえって、いるから、ここに!」
「いるって、何が?」
「何が? ……じゃねぇ。からかっていやがるな?」
こ、この小娘、
鶉娘の
「はは〜ん、ショーマ、そーゆーこと……」
鶉娘は洋服の袋を
「そーゆーことって、なんだよ……うっせぇなぁ……」
ふすまがほんの少しだけ開いたかと思うと、隙間から鶉娘がこちらを
「ショーマの……エッチ!」
「な、うるせえ!」
僕は、
「ププッ。へへーん、ノーコン!」
そう言って鶉娘は、またピシャリとふすまを閉じる。
あーもう、ダメだ。あいつにゃ
「……こりゃ、今日一日、体がもつかわからんぞ……」
目覚めたばかりだというのに、この疲労感……こりゃ、先が思いやられる……。
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