第8話 奔走2
「……だたいま……ウズメさ〜ん? いますか……? 帰りましたよ~おおっ!」
部屋中に、
くうう……ありがてえ、
「おーい、ウズメ? そっちにいるのか? いやあ、マジであんなにたくさんの洗濯物……」
和室のふすまを開けると、とんでもない光景が広がっていた……。
ヘッドホンをつけて、
足首でリズムを
お、おい、まさか……うげ! 押し入れが全開じゃねえか!!
「ウズメーー!!」
「うひょ〜。へえぇ、ショーマってこーゆー感じが好きなのかぁ……」
僕は、ひったくるように鶉娘から
「おい、なんなんだコレは!! あれだけ開けるなって言ったじゃねえか!」
「あ、ショーマ、なに? あ、とりあえずお帰り~」
「何が、『あ、とりあえずお帰り~』だよ! 聞いてんのか!?」
あいかわらず、足首でリズムを刻みながら、ポカンとした顔をしている。こいつ、聞こえてねえな!?
ヘッドホンを奪い取ると、
「あー、もう、せっかくノリノリだったのにー」
そう言いながら、ヘッドホンを奪い返そうと両腕を伸ばしながら起き上がった。
「お……おい、ウズメ! これはいったいどーゆーことだ!」
「ん? あぁ、洗濯物? ベランダ狭いから
布団の上にペタンと女の子
「うぐぐ、そ、それはありがとう……って、それじゃなーい!!」
「どーしたの、ショーマ? そんなに、ムキになっちゃって……」
「ウズメ、ちょっとそこに座りなさい……」
そうだ、ムキになってはいけない。大人になれ。こんな小娘に
「……さっきから座ってるよ?」
「……い、いいから聞きなさい。コレはどういうことだ。あんだけ開けるなって言ったのに……ぜ、全開じゃねえか!」
「ねぇショーマ……ショーマって
どっきーーーーーん。
「な、ななななな、なんでその名前を!?」
「だって、その
鶉娘は、
「い、いいじゃねえか!
「へぇー。そっか。そうなんだ。ショーマってこーゆー感じの
そう言いながら、両手で胸元をさすっている。
「デカ!? ……違う、違うね。僕はね、大人の女性が好みなの。
「へーんだっ! そーですか。そんな
「う、うっせい。だから
「それとさ、奥の
「アレはーーっ!!」
鶉娘が、ビクッと肩をすぼめるのがわかった。それくらい、無意識のうちに
「……ショーマ?」
ヘッドホンから
「……アレは何でも無いから!!」
「……ショーマ……どうしたの? ……急に……」
少しだけ
「あーっと、な、なんてね……びっくりした……よね……?」
「え? ……びっくりっていうか、その……ごめんなさい……」
肩を落として、本気で心配をしている。僕に対して、初めて見せる表情だった。
「たはーっ、なーんてなー。冗談、冗談……軽い冗談……ハハ……」
「…………冗談……か……それなら……良かった。私、何か気に
あいかわらず、不安げな表情で僕を見つめる鶉娘。
「な、何でもないよ。そ、そーだよ、ジョーダンだよ。軽い冗談!」
「……なんだ……よかった。なんか、ちょっと……少しだけ、怖かったかもだよ……」
「ごめん!! ……ちょっと、冗談にしては、
「う、うん。私もゴメンね。勝手に押し入れ開けちゃって……」
やっちまった……なにやってんだよ。こんな年下の女の子に対して、怒鳴るようなマネするなんて。
「い、いいっていいって。それより、着替えと弁当、買ってきたぞ!」
そうだよ、こんな空気、やめやめ。弁当食って、忘れよう忘れよう!
「そ、そう、ありがとう。もう、ショーマったら遅いんだもん。お腹ペコペコだよー……へへへ……」
「ペコペコって! それは、こっちのセリフだって……」
鶉娘も、僕の気持ちを
鶉娘はスッと立ち上がると、ダイニングテーブルへ駆け寄って、袋の中を
「わー、お弁当、お弁当。何かな何かな……」
うつむきがちに、お弁当を袋から取り出して、テーブルの上に並べていく。その仕草はとても弱々しくて、今までの鶉娘がウソみたいに
元気いっぱいで、やりたい放題の
そもそも、どうして鶉娘はここにいるのか。なぜ僕の前に現れたのか。今後、どうなっていくのか……どうなってしまうのか……。まだ、何もわからない。
これからどうするのか。少しずつでも決めていかなくちゃならないことが
「ウズメ……ひとつだけ、言っておかなくちゃならないことがある」
僕は、鶉娘を真っ直ぐに見つめる。
「…………うん、何……?」
お弁当を広げる手を止めて、こちらをうかがう。
「……し……下着と………プキンは、買えなかった」
「…………え?」
「だから、……買えなかったっての……」
鶉娘の口元が、ホッとしたように小さくほころぶ。
「……え? 後半が良く聞こえなかったよ、ショーマ。なーぁに?」
エヘヘっと、優しく微笑みながらそう尋ねる。まるで女神様のように……。
「聞こえなくていいっつの! てか、聞こえてるだろ。と、とにかく、買えなかった。一応頑張ったつもりだぞ、それなりにはな。……その……すまん」
「あ、いいよ、下着はべつに明日でもいいし。アレもあと
…………ゴゴゴゴゴゴゴ!
「あれ? ショーマどうかしたの?」
「……必要……無いだと!?」
「あ、あれ、もしかして、本気で怒った……? ウソウソ、ゴメン、ちょっとやりすぎた?」
「ヴ~~~ズ~~~メェ~~~!!」
こんの、クソガキ~~! 女神様
ダイニングテーブルを中心に、追いかけっこが始まった。グルグルグルグル。
あんまりグルグル回ってると、バターになっちゃうよ。
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