第7話 奔走
「いらっしゃいませー」
はい、いらっしゃいましたとも。
店内の半分が男性向け、もう半分が女性向けって感じに分かれてるみたいだな。
僕は当然の様に、男性向けコーナーに直行する。
うーん、さすがに遠くてよくわからんなぁ。やっぱり、あちら側のコーナーに乗り込んでいかないと、
ええい、恥ずかしがってる場合じゃない。さっきのやる気はどうした!
ニョキニョキと、カニ歩きの
よし! 入った、入ったぞ! 潜入成功だ! ……っと、どれどれ?
うむ。まずは
まてよ、サ、サイズが全然分からん……。
うぐぐ……ええい、もう適当だ!
い、イケるぞ、思ったより順調な滑り出しだ。この勢いで
次は、外に出られそうな服を一式……いや待て、
……さすがに一式
「お客様? 何かお探しでしょうか?」
「ひぎーーー!」
び、びっくりした!! て、店員さんか……全然気づかなかった。いつの間に背後に回り込んだんだ? ってか、ステルス性能高すぎない? 全く気配を感じなかったよ……。
「あの……こちら、女性向けとなっておりますが、よろしかったですか? ……あら? おでこ、どうかなされたのですか?」
すこし年上、二十代後半くらいの女性店員さんだ……って、そういや、冷えぴったんを貼ったままだった。
「あ、いや、何でもないです。大丈夫です、ちょっとおでこ、ぶつけちゃって」
店員さん、笑顔だけど、目が笑って無くない? 何か僕のこと……ちょっとアヤシイ人って思ってないよね?
「あら、そうですか……気をつけてくださいね。ところで、何かお探しでしょうか?」
「あー。えーっと、その……あーそうだ、妹! 妹に洋服をプレゼントしようと思って見に来たんですけど、サイズとかも全然分からなくて……」
ふう……思いつきとはいえ、我ながらナイスな嘘が飛び出したぞ。これは
「あらまあ! 素敵じゃないですか!? 妹さんにプレゼントされるのですね!」
ぱあっと、明るい笑顔になる店員さん。やっぱり、さっきまで目が死んでたよね……。
「は、はい! あ、兄として……たまにはイイところ見せてやりたいと思いましてね……アハハ……」
出まかせにも程があるぜ……まぁ、適当に話を合わせよう。
「あの……お客様? お洋服、一緒にお選び致しましょうか?」
「え!? 本当ですか? 是非ともお願いします!!」
キターッ!! ラッキー。これは上手くいったぜ!
「えーと……妹さんは、お
「一七歳です! けど、少し
「大丈夫ですよ、お客様。おおよその身長やスリーサイズのデータがありますから、それを
え? そんなことできるの? なんか凄いな。
「じゃあ、お姉さんにお任せしてもイイですか?」
「はい! 是非とも。それでは、妹さんのイメージをおうかがいしますね。まずは……髪型はどのような感じですか?」
「髪型ですか? ……ええっと、黒髪のロングで、ストレートです……腰のあたりまである感じです……」
とまあ、いくつかの質問に答えた後、しばらくすると、上下、靴下から靴まで全てコーディネートしてくれた。
「どうでしょう……妹さんのイメージに合いますでしょうか……?」
うーむ、
それでも、いかにも
「おお、なんかちょっと感動です! お姉さん、ありがとうございます。これでお願いします」
「いえいえ、どういたしまして」
「じゃあ、この調子で
「…………え?」
「ん? ……あの……ですから下着を……」
「……妹さんに……下着……も、プレゼントされるのですね……?」
あ、あれ? 店員さん? ちょっと、その目、お客さんにその目……ダメですよ?
「……なあーんちゃって! じょ、ジョーダンに決まってるじゃないですかー!!」
「あ、いえいえ、あ、冗談ですよね。あ、いえ、その、
「ハハハ…………」
「……………………」
なんだ、この地獄のような空気は……。
「…………い、以上でお願いします」
「……は、はい。お会計でーす」
す、すまない
てな感じで逃げるように洋服屋を後にした僕は、続くドラッグストアでも
あまりの種類の多さに、本気でどれを買えばいいのか、全くわからなくなってしまったのだ。さすがに店員さんに聞くわけにもいかず……。
というか、何をどう聞けばいいかもわからず、ただただ
負けた……。完全なるアウェイ戦。
「昼」だの「夜」だの「多い日」だの、一体何だってんだい。
でも、……女の子って、大変なんだな……。
そんなこんなで、弁当を買ってアパートにたどり着く頃には、すでに夕方になりつつあった。
随分と遅くなっちまったけど、鶉娘のやつ、おとなしく留守番してるかな?
「おーい、ウズメ? 帰ったぞ~。ちょっと両手
「…………」
あれ? 返事ないなぁ。
「……ウズメ~?」
いないのかな? といっても、あの格好のまま、どこか外へ
仕方ねえなぁ……。僕は弁当が入った買い物袋を口にくわえて、鍵を取り出す。
カチャリと素直に鍵が開いたことにホッとしつつ、そっとドアを開けた。
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