第6話 同棲2

「仕方ない、もう一回弁当買いにいくしかねーなぁ……」

「イイね! そうしよー。私も一緒に行く!」


 ビシッっと手を挙げる鶉娘うずめ。Tシャツのすそがフワリと上がって、太ももがあらわになる。


「そ、その格好かっこうで行くつもりか? ……ってか、服はどうしたんだよ!?」


 サッっと視線をらして、そうたずねる。


「服? ……んーとね、天界てんかいのクリーニングに出したの。あっちだと、三十分くらいで仕上がるから、着替えってあんま持ってないのよねぇ。そしたら、急にこっちの世界に切り変わっちゃって。それにしても、何で突然切り変わっちゃったのかな?」


 突然切り変わった? ……理由はよくわからないけど、何かをきっかけにこの世界と天界? がつながって、また途切れたってことなのか?

 電波が混信こんしんするみたいな感じなのか……?

 あーもう、こんなの考えたって絶対にわからない。

 と、とにかく目の前の問題を、何とかしなきゃだな。


「えーと、ウズメ?」

「……さん、は要らないよ……」

 う……こっ恥ずかしいんだよ。彼女いない歴=年齢を甘く見んな!

「ゴホン。……ウズメ?」

「ん? なーに?」

 にこーっと満面の笑みを浮かべやがって、ち、ちくしょう。


「し、下着のえは……あるのか?」


 な、何を聞いてるんだー!! ……でも、気になる……いや、気になるじゃなくて、必要だろって話、生活必需品だからねっ、ねっ!


「あーーーーーーーーーー!! た、大変だ!」


「ど、どーした、ウズメー!!」


 鶉娘うずめはタタッと僕のそばへ歩み寄ると、チョイチョイと手招てまねきをしている。そっと耳を貸すように口元へ近づけてみると……


「あのね……〇〇〇〇……無いよね?」


 内緒話のように、こっそりと耳打ちされた。


 ……それって、アレ……だよね。いわゆるその……女性が定期的に必要とするヤツだよね……。


 なーーーーい。無い無い無い無い無い! 絶対に無い!


 あったらどうかしてるよ。男の一人暮らしにアレは置いて無い。

「えー、困ったなぁ……でも私、こんな格好かっこうだし……外も出歩けない……。とーっても残念だけど、おとなしくお留守番してるしかないね! えへっ」


 両ほほに手をえて、恥じらうようにクネクネとしながら、ほほめている。


「な、ぬ? ……つ……つまり……僕一人で……」


「ショーマ、お・ね・が・い。買ってきて!」


 はう~~ん。ヤバい。めまいがする。

 別に、男性が購入してはいけないモノでも何でもない。

 既婚きこん男性であれば、奥様のために仕事帰りについでに購入なんてことも、めずらしくないだろう。

 けど、こちとら生粋きっすいモテ野郎。このミッションに対して、超絶ちょうぜつビギナーと来たもんだ。


 ヤバすぎる……。いくらなんでもキケン過ぎるミッションだぜ……。


「……ムリ……かな……?」


 チラリと、僕を上目遣うわめづかいで覗いてくる。


 たーっ、やるしかない。もう、よくわかんないけど、当たって砕けろだ!

「よし、とりあえず、弁当と、着替きがえと、ナプ……だな!」

「ん? ショーマ、最後が良く聞こえなかったよ?」

「えーーーい、聞こえなくてよろしい!」

「あはぁ! ショーマったら、顔真っ赤だよ! えへへっ」

 ぬおーーっ。この娘、絶対ワザとやってやがるなぁ?


 僕は、鶉娘うずめをキッとにらんでやった。

「おー、怖い怖い! ゴメンって。えへ。その代わり、あそこにまった洗濯物、私がばっちり片づけてあげるから、ね。」


 なぬっ!? ホントか? ……それはありがたい提案だぞ。


 家事かじの中で、洗濯が一番嫌いというか、めんどくさいんだよね。

 それが片づくのか……それは願ったり叶ったりってやつだ。仕方ねえ、ここはいっちょ、砕けてまいりますか!?


 ……っとその前に、鶉娘うずめにコレだけは言っておかなくちゃだな。忘れたら、大変なことになっちまう。

「……ウズメ、その……押し入れの中は、見るなよ!?」

「ん? 押し入れ?」

「そう……あの中はキケンだからな。ウズメにもしもの事があったら大変だ!」

 もしもの事なんて、絶対にないけど。

「うん、わかった。ショーマが私のこと気にかけてくれてるの、伝わるよ。嬉しい。押し入れの中、見ないようにね!」


 鶉娘うずめのヤツ……物分かりが良くて助かるぜ!


「いいか、ウズメ。押し入れの中、見るなよ。見るなよ。絶対に見るなよ!!」

 ばっちり決まったぜ。これだけねんを押せば、大丈夫だろう。


「……ショーマ、それって完全にフラグだよ……?」


 フラグ? フラグってなんだ? 最近の若い子は、よくわからない言葉を使いたがる。困ったものだ。

 ……1700歳超えてるみたいだけどな……。


 まあいい、とにかく買い出しにレッツゴーだ!

「よし、行ってくるぜ! 留守番たのんだぞ!!」

「うん! まかせて。いってらっしゃーい、ショーマ~」


 僕は、意気いき揚々ようようと部屋を飛び出した。

 まるで若奥様のように手を振る鶉娘うずめに、笑顔で見送られながら。

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