第5話 同棲

 女神様めがみさまってひびき、イイよね。


 僕はその女神様という響きから、清楚せいそ可憐かれんな、理想りそうの女性像を連想れんそうしてしまう。

 ブロンドのヘアーに、ととのった顔立ち。抜群ばつぐんのスタイルと、それを包み込むてん羽衣はごろも。常に後光ごこうして、見るもの全てを魅了みりょうしてしまう。


「ちょっと、僕の想像と違うんだけど……」

「ん? 何か言いました?」


 ダイニングテーブルの向かいにすわる『自称じしょう女神様』は、手のひらサイズに個別こべつ包装ほうそうされた、小さな銀色のふくろ開封かいふうしている。


「あーいやいや、何でも……」


 あぶない、あぶない、余計なこと言わないほうが良さそうだ。


「はい、じっとして!」


 袋から取り出した『冷えぴったん』を、僕のおでこにそっと貼り付けてくれた。

 と思うと、バチーンと手のひらで押し付けられた。

「つ、痛ったー」

 聞こえていやがったな……。


「情けない声、出さないの。男の子でしょ」

 何が男の子でしょ、だよ。自分のほうが年下のくせに。

「あのねぇ、もう少しやさしくできないかなぁ?」

「え? 十分じゅうぶん優しいじゃないですか」

 優しい? さっきから、何回痛い目に会わされてると思ってるの?

 それに、女神様っていったら、そりゃあもう、優しいなんてもんじゃないっしょ。

 痛い目に会わせるなんて、絶対にしないはず。


 ……これが、女神様ねぇ……。


「ねえ、ショーマ。それより、私おなかすいちゃった」


 ……女神様。早速さっそくですか? ……早速想像を超えてきてくれますね。まぁ、女神様もそりゃ腹は減りますよね、ハイハイ。

 ってまぁ、確かに腹は減った。


 とんだゴタゴタのせいで、昼飯ひるめしいそびれていたっけ。たしかコンビニで買ってきた弁当があったはずだけど。

「ねぇ、ショーマ、何か食べるもの無いのー?」

 鶉娘うずめはそう言いながら、冷えぴったんの包装ビニールを小さくむすぶと、ゴミ袋に向かってポイッと放り投げる。


 さすが、女神様。育ちが違う。


 ふわりと放物線をえがくように、3メートルほどはなれたゴミ袋へ、見事吸い込まれた。


「ねえ、見た? ショーマ! 凄いでしょ。ナイスコントロール!」

 Vサインを見せてくる。


「あぁ、さっきの牛乳瓶といい、いいコントロールしてる……って、おい! 何だよアレ!!」

「アレって?」

「ゴミ袋の中だよ!」


 ダイニングの片隅かたすみ、無造作に置かれたゴミ袋の中に、空っぽになったコンビニ弁当の残骸ざんがいてられている。


 どう見たってアレは、僕が昼飯用に買ってきた弁当じゃねえか!


「あー、あれ? ショーマが持ってたヤツね。んとね、冷えちゃうと美味おいしくないと思ったから、あたたかいうちにね」

ったのか!?」

「はい! 食べました! ごちそうさまです!!」

 ニヤッと不敵ふてきみを浮かべる鶉娘うずめ……くっそう、さっき僕が言ったセリフ、真似まねしやがった。


「……アレったのに、まだ腹減はらへってるっていうのか? こちとら、朝からなーんもってないってのに」

「育ち盛りの女の子を、めてもらっちゃあ困ります」


 チッチッチッと、人差し指を振るような仕草。あいかわらず、クソ生意気だな。


「育ち盛りって、そういやオマエいったい何歳いくつなんだよ」

「オマエ!?」

 ギラリとした視線が飛んでくる。

「……ウ……ウズメ……

 名前で呼ぶの、れてないんだっつの。なんか、照れるんだよ。

「…………まあよろしい。ショーマ、教えて差し上げましょう。このうらわか女神めがみ鶉娘うずめ様は今年で、せんななひゃく……あれ、違ったかな? にまんよんせん……??」


 鶉娘うずめは腕を組んだまま目を閉じて、うんうんとうなっている。


「……に、二万……だと!?」


「……えっとね、所説しょせつあるのよ。ちょっと待ってて……」

 手のひらの上でソロバンをはじくような指使い。必死に計算しているようだ。

「ちょ、ちょっと待った!」

「え? もう少しで、計算終わるのに……」

「せんななひゃく……千七百……いちなな……じゅうなな……十七歳! ……十七歳ってことにしない?」


「うん? 十七歳? 十七歳かぁ……まぁ、それくらいでいいかなー。たしか、こっちって、高二こうにだと十七歳くらいでしょ? 私、あっちの高校で二年だから、まあ、それでいいや」


 ……あっちの高校? ……二年? ……こっちの世界と同じで、あっちの世界にも学校制度なんてもんが存在してるってのか?


「……女神様めがみさまも高校、かようんだね……」

「当たり前じゃない、常識よ!? そんなことも知らないの?」

「知るかぃ!」


 ……うーん、1700歳超え……まさかの大大大先輩。にしちゃぁ、やることがお子様じみてやがる。


 十七歳……とりあえず、そんなところか?

 もう少し幼い気もするけど、まあ良しとするか。

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