第2話 義妹の部屋に入るのはこっそりと

「追いついたぞォォォ寧々ェェ! 」

「ふぇぇっ……!?」

「……じゃ、じゃあ寧々ちゃん先行ってるね」

 友達は引き気味に去っていった。


「寧々、避けんじゃねーよ 」

「……だ、だってぇ、颯ちゃんの恋を邪魔できないし…… 」

「恋ってお前そもそも俺は瑠奈のこと好きじゃ……」


 ガガガッ───

 こんな時に視界が変化した。


 1. 義妹と一緒に帰る

 2. 寧々が事故に遭う


 全く酷い選択肢だ。

「くそっ!こんな時に…… 」

「颯ちゃん? 」

「こんなの①しかねーだろォォ! 寧々!来てくれ!」

「ふぇぇっ……!? どこに!? 」


 たしかあいつまだ学校いたはず……。

 寧々を引っ張って校門まで戻ってきたが、もしかして入れ違いになっちまったか……いや、居た。

「おい瑠奈ァァ!!」

「うわ、瑠奈ちー、お兄ちゃん呼んでるよ……」


 友達には引かれまくっているが、この際、寧々の安全のためだ。なんだってする。


「ちっ! なに、颯真……と寧々、ちゃん 」

「え……えっとぉ、颯ちゃん? 」

「2人とも!一緒に家まで帰ろ! 」

「……は? 」

「……え?」


 よし、なんとか一緒に帰ることになった。

 だが、瑠奈は俺と話さなくなってから寧々とも話さなくなった。

 そのため、ここはめちゃくちゃ気まずい空間である。

 逆に2人ともよく付き合ってくれてるな。

「……瑠奈ちゃんはさ、」

「は? 」

「ひぃぃ…… 」

 寧々はブンブンと首を横に振り覚悟を改めて決めたようで、再度瑠奈に話しかけた。

「瑠奈ちゃんはお兄ちゃんのこと嫌いになったの? 」

「は……なんでよ? 」

「いや、ここ数年話してるところ見たことないからさ 」

「嫌いも何も興味ないってゆーか、この前の告白もキショいってゆーか、とにかく家族としても男としても有り得ないね 」


 ひどい言われようだ。

 お兄ちゃん泣いてもいいんだぜ?

 が、ここは寧々が頑張って話をしてくれたため、俺は折れそうな気持ちを踏ん張った。


 いやいや、ここは俺が話をしなければ。

「2人とも……」

「うるさい!! 」

 いや、こんなにうちの義妹キツかったっけ?

 怒られる必要がない時も怒られるの、それ何?


 しばらく沈黙のまま俺たちの家が近づいた。

 寧々の家はもう少し先だ。


「じゃ家ついたからあたし先に中入っとく」

 瑠奈が先に帰り、俺は寧々と2人になった。

 ここで謝らなければ。

「寧々、あの……昨日もそうだし、今日もなんだけど訳分かんねぇよな。 事情はちょっと説明できないんだけど、本当ごめんな 」

 俺の脳内に義妹を優先する選択肢が出るんですーなんて言ったら本格的に頭おかしいやつだと思われてしまうため、こう説明するしかない。

「……うん、うん分かった。分かったよ、颯ちゃん!」

 寧々は何かを決意したかのように何度も頷いている。

 さすが、この子は俺の幼馴染だ。

 これだけの説明でよく分かってくれた。

 やはり将来は彼女と結婚するしかない。


「ありがとう。 分かったくれたか…… 」

「うん、分かったよ。 私は颯ちゃんの邪魔をしないでおこうと思ったけど、あの扱いじゃ1人で難しいもんね」

「ああ、ん……? つまり寧々さん、どゆことです……? 」

「つまり私が瑠奈ちゃんとの恋を協力するってこと! 」

 寧々さん、そんなこれで解決!みたいに人差し指立ててウインクされても何にも解決しておりません。

「いやいやいや、何か勘違いされてらっしゃるのでは? 」

「じゃあまた明日起こしに行くからちゃんと起きてよっ 」


 忘れていた。

 寧々の天然ぶりと人の話を最後まで聞かない性格とやらを。

 無視されなくなったのは良かったが、彼女にとんでもない勘違いをされてしまった。

 


 ◇



 家に入るといつも通りの義妹がいた。

 そう、俺の事をフル無視、もしくは睨んでくるような。

 空気が悪いのなんのって、もう今更だが。

 部屋に戻るか。


「……っとつい寝ちまってたぁ 」

 ってまた選択肢だ。

 これいつになったら終わるの。


 1. 義妹の部屋に入る

 2. 親父を大声で起こす


 これは即答、1でございます。

 うちの親父をなめてはいけない。

 こんなことしたら二度と家の敷居を跨げないと思った方が良いだろう。


 えーっと夜も遅いし、そーっとドアを開けますか……。

 思春期の女子の部屋はマズイ気がするが、親父を起こすことを思えばなんだってできる気がする。

 この選択肢、俺のことをよく分かっているようだ。


 キーッ


 静かにドアを開けると、瑠奈の独り言が聞こえてきた。

 どうもまだ起きているようだ。

「……ったくなんなのこの選択肢、もう毎日毎日飽きずにもう! 全部お兄を否定するものばっかり、おかげでこの数年話しにくいったらありゃしないわァァッ! ……!? 誰? 」

「あ……ごめ、聞こえちった 」

「はぁ……マジか。……まぁ中、入って」

 一度驚きはしたが、すぐさま冷静になり俺を部屋に招き入れた。

「で、どっから聞いてた? 」

「あの、選択肢がどーとかってらへん? 」

「……聞かなかったことにして、いい? 」

 もしかして選択肢が見えてるのって俺だけじゃない?

 そう思ったら気持ちが少し楽になったような気がしたが、まずは確認せねばなるまい。

「聞かなかったことにする前に俺の話聞いてもらっていいか?」

「……? 」


 っことで昨日今日の出来事をぶちまけた。

 これで義妹に選択肢など見えていなければ恥をかくだけだが。

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